リニアの建設工事がなかなか進まない。辞職した川勝平太前静岡県知事は「会社が立てた事業計画を、金科玉条のごとく相手に押しつけるのは迷惑千万だ」として反対姿勢を貫いてきたが、愛知県の大村秀章知事は「開業が静岡の意図的な行為で遅れることは受け入れられない」と反発していた。

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 しかしJR東海は今年に入り、「静岡県内での工事の遅れが開業時期に直結し、2027年の開業は実現できない」と発表している。リニア中央新幹線は東京・品川から、愛知・名古屋までを約40分で結ぶルートが工事中で、延伸すれば東京〜大阪間が1時間で結ばれる計画だ。

 リニア構想の歴史は古く、1962年、東京オリンピックと東海道新幹線(東京〜新大阪)の開通を控えた2年前に東京〜大阪間を1時間で結ぶ「中央新幹線」として計画が始まった。大阪万博が開催された2年後の1972年には、初の公開実験がおこなわれた。当時は時速60kmだったが研究を重ね、1997年に500キロを突破し、2015年には有人で最高速度603キロを達成した。東海道新幹線は計画から25年で東京〜新大阪間、36年で東京〜博多が開通したことと比べて、リニアは構想から60年以上経っても未だ営業にすら至っていない。

 では、そもそも何を揉めているのか。静岡経済新聞の編集長で、長くリニア問題を取材してきた小林一哉氏は、「一番の理由は『静岡県にデメリットしかない』。川勝知事も発言していた問題が大きい」と指摘する。

「『早く目的地に着くために、沿線の駅も要らない』というのがJR東海の考えだったが、地域振興をしなくてはいけないため、JR東海は『沿線の駅を作る』となった。しかし静岡県を通るのは、わずか10キロ。しかも南アルプスの地下400メートルに作るトンネルのため、駅ができるわけがない」(静岡経済新聞・小林一哉編集長)

 現在の計画では、リニアは静岡県をわずか約1分12秒で通過する。小林氏は、そもそも開通しても、他県のような経済効果が期待できないと語る。加えて、南アルプスを源流に静岡県を南北に縦断する大井川の“水問題”が浮上した。「2013年にJR東海が『静岡県の南アルプスを通過することで、大井川の水量が毎秒2トン減る』と説明した」。

 水量の低下は、流域の田畑や生活用水に影響が出る。小林氏によると、JR東海は「水が足りない時はポンプアップして、その分も導水路を通して返す」と提案するも、川勝氏は「流水域62万人の命がかかっている。100%戻してもらわないと困る」と断固反対し、さらに地下水減少による南アルプスの自然環境保全も担保するよう主張した。

「川勝氏が水問題で反対したこと自体は正しい。毎秒2トンが流出すれば影響があり、JR東海に『対応してもらいたい』と求めるのは当たり前。水を使う人たちが住んでいる地域は100キロ以上離れている。水位が低下したからすぐ影響があるのではなく、流域の人たちには『万が一何かあったら』の方が大きな問題だ」(小林編集長)

 なお、小林氏自身は「私たちの世代は乗れるかわからないが、リニアは早く開業した方がいい」という考えだ。

(『ABEMA的ニュースショー』より)