各地で相次ぐ、自治体の長によるいわゆる“抜け駆け接種”問題。「貴重なワクチンを無駄にしない方が優先」という声の一方で、ずるさを指摘する声も相次いでいる。

【映像】ワクチン“先行接種”の問題は

WHOで新型インフルエンザのパンデミック対応策の策定に携わり、医療資源の分配に関する倫理学を研究するカナダ・マギル大学の広瀬巌教授は、この問題について大切なのが共感と理解だという。

「(ワクチンが)余った状態、キャンセルした人や接種会場に来られなくなった人というのはどうしても出てくると思う。その際に、この貴重な資源(ワクチン)を無駄にすることはばかげている、誰かに接種するべきだというのは、誰でも賛成すると思う。問題は『誰が穴埋めをするか』ということ。理解を得られるのは、やはりウイルスにエクスポーズ(さらされている)されている人を最初に優先するべき。接種会場で事務をやっている方、交通整理をやっている方たちというのは、たぶん医療従事者にも65歳以上にも入らないかもしれない。ただ、そういう人たちに余ったワクチンを接種するというのは、共感と理解を受けられると思うので、そういう風に使うべきだと思う」(広瀬教授)

住民の十分な理解が得られず不信感が募ると、自治体のコロナ対策にも大きな影響が出てしまうと広瀬教授は指摘している。

「まず押さえておかなければいけないのは、今回のパンデミックの対策というのは一人ひとりの行動変容が肝だということ。“一体感、やる気”がどこから出てくるかというと、国のリーダーもしくは地方のリーダーがみんなをまとめて、『こういうゴールに向かってみんなで頑張りましょう』と手本を示すのが仕事の一つ。そのリーダーが例えば宴会やパーティに行ったり、いろいろな理由をつけてワクチンを接種しようとしたりすると、やはりみんなのやる気がなくなってきてしまう」(同)

現状、ワクチンの接種は医療従事者、高齢者、基礎疾患のある人などに優先順位が定められている。広瀬教授はこの3つのグループ以外にも一定のガイドラインを定めておくべきだったとしている。例えば、大都市や地方都市など都市の大きさによってガイドラインがあれば、不透明さを軽減できたのではないかというのだ。

また、優先順位について同様の問題が起きているのが医療現場だ。

「地方でも基幹病院になると、自然災害時のトリアージというのは手法も手はずもちゃんとできているし、練習もしている。ただ、今回のように病院、救急、保健所が絡んだ、3つをまたぐトリアージの基準はこれまで想定していなかった。全く新しい状況で、実質いま保健所がトリアージをするというのは想定していなかったと思う。大阪とかでは起きているようだが、自宅で亡くなるというのはもうトリアージが起きている証拠。まさに、コロナ以外で救急が必要となる人にしわ寄せがいっていると思う」(同)

コロナの感染が広がれば病床はひっ迫し、限りある医療リソースを誰に配分し、誰に配分しないのかという問題が起きてくる。トリアージは「なぜ自分が優先されないのか」という不公平感を生みかねない。国レベルでのルール作りをしなければさらに医療現場に負担がかかり、医療制度全般への不信感も生まれてくる懸念があるとした。

「皆さん受け入れがたくても、“こういうルールが全国にあって、それにはこういう理由がある”ということが周知されていれば、怒りが爆発するか・抑えきれるか、線引きの部分でかなり重要なファクターになってくると思う」(同)

トリアージの基準が作られない理由として、広瀬教授によれば「『命の選択』の結論は誰も出したくないもの」で、結果的に現場に難しい判断が押し付けられているという。

この“避けたい議論”は進められるのか。ニュース解説YouTuberの石田健氏は「答えがない問いだが、緊急性の高い医療機関や軍隊ではトリアージの知見は貯まっている。今回、個人の自由をどこまで制限するかという話はたくさん出てきた。“ロックダウンは基本的人権の損害だ”という話は、どこまで権利の制限が認められるのか、どこまで命を大事にしなければいけないのかという権利と権利のぶつかり合い。緊急事態宣言の中で、緊急事態条項や憲法改正の議論を進めていくべきだという話が政治家から聞こえてきていて、これを今やるべきかは置いておいても、いつかはしなければいけない議論なので、すでに知見がある医療機関や軍などの意見を取り入れながら進めていく必要があると思う」との見方を示した。
(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)
 

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