「若い男性がどんどん保守的になる一方で、若い女性は革新的になり、若い男女ほどイデオロギーの差が大きくなっている」と、イギリス経済紙フィナンシャル・タイムズが伝えている。さまざまなデータから、世界中で若い男性が保守化しているのだという。

■32歳と30歳の弟が「超保守的」でびっくり
「私は4人きょうだいのいちばん上。すぐ下に妹がいて、年の離れた弟がふたりいるんです。確かに妹はぶっ飛んでいるけど、弟ふたりは保守的ですね」

ナナミさん(37歳)はそう言う。彼女は独身で、恋愛を楽しみつつ仕事に全力を傾けている。妹は35歳で、つい先日、2度目の結婚をしたばかり。

「上の姉妹は親戚からも『変わってるね』と言われています。私は結婚に興味がない、妹は大恋愛で結婚した相手と『飽きちゃった』と別れ、それでも元夫と仲良く子育てをしていた。でも突然、別の男性と再婚し、今は新婚ほやほやですが、元夫がよく子どもの世話をしに来るそうです。妹が、今夫と元夫を仲良くするように仕向けたみたいで」

ところが弟ふたりは、かなり保守的だという。上の弟は32歳だが、彼の話題といえば「女らしい女がいなくなった」という愚痴ばかり。そもそも「女らしい女」と言っている時点でアウトだろとナナミさんは笑うが、弟としては本気らしい。

■若くして結婚した過去は「ふしだらでダメ」
「末っ子は30歳になったばかりなんですが、結婚したくてマッチングアプリに登録したらしいんです。それで会った3歳年下の女性と話が合い、2度目のデートをした。そのとき彼女が『実は若いころ短期間、結婚していたことがある』と告白したんですって。そうしたら弟は怒っちゃって、その場で帰ってきてしまった。

2度目で話してくれたのならいいじゃないと言ったら、『あんなふしだらだと思わなかった』と。若くして結婚したことが“ふしだら”なのかと尋ねたら、『そうだよ、だって彼女、22歳で結婚して1年も経たないうちに別れたというんだ。夫に尽くせない女はダメだ』って。何言ってるのこの子はという感じですよ」

女は純潔であるべき、女は夫に尽くすべきなど、末の弟が言うことは「父親でも言わなかった」ことばかり。ただ、彼女の弟たちだけが「今どき、ヘンだ」というわけではないらしい。

「私自身、仕事の関係で若い男性から話を聞くことが多いんですが、確かに保守的になっていますね。表だっては男女平等だと言っているし、理屈では女性が革新的になるのもいいことだとわかっている。でも自分自身の女性に対する好みや関心は、公に言っていることとは違う。

『結婚したら共働きにならざるを得ないとは思うけど、それでも夫を立てる妻であってほしいのが本音』なんて言っちゃうわけですよ。妻になる女性は過去に恋愛経験が乏しいほうがいいとか、性的なことをオープンに話す女性は苦手だとか。今、どんな時代ですかと言いたくなりますね」

弟世代に保守化が目立つことで、彼女は同世代の女性たちが生きづらいのではないかと心配になると言う。

■事実婚の夫が結婚してから保守的になる
「うちの夫も結婚してから急に保守的になりましたよ」

そう言うのはサヤカさん(38歳)だ。4年前、2歳年下の彼と事実婚をした。ところが子どもができたとわかると、夫は急に「婚姻届を出そう」と言い出した。

「子どもができるのも想定した上での事実婚だったのに、妊娠したら『このままだと子どもがかわいそう』と言いだして。私は家と家との結びつきを重視するような結婚はどうしても嫌だった。夫もその考えに同意してくれていたのに……」

夫の両親もやってきて、「別に付き合わなくてもいい。ただ、子どものことを考えてあげて」と土下座せんばかりに頭を下げた。あげく、サヤカさんの両親にまで、「お父さんと子どもの姓が違っていたらかわいそうでしょ」と責められた。

「つわりがひどい時期にそんなことをされて、私、疲れちゃったんです。それでしかたなく婚姻届を出しました。きっとあとで後悔すると思いながらも、そうするしかなかった」

普通の結婚をしたら、夫はなぜか「普通の夫」になってしまった。サヤカさんに仕事を辞めたほうがいいのではないかと言い出し、せめて子どもが3歳になるまでは家にいてほしいとまで言ったのだ。

■結婚生活は「男が損する」と思っている?
だがそんな夫の言うことを聞かず、彼女は育休を半年足らずで切り上げて仕事に復帰した。そして、いわゆる「嫁」としての従来のありようはすべて拒否した。

「夫は夫で、家事はしようとしませんが、子どもだけはかわいいみたいでせっせとめんどうを見ています。そのうち家事もやってくれるといいけど、男が家事なんて……と言っていますね。結婚前には男女平等だとしきりに言っていたのに」

夫が保守的になったのは、結婚したら従来のありように則ったほうが楽だと思ったからだろうとサヤカさんは言う。

「旧来の思考で、旧来の制度に則っていれば誰にも何も言われませんから。今までの生き方を変えようとするのは大変です。でも私は諦めないつもり。いつか子どもに事実婚の話をして、夫には離婚届を突きつけて、事実婚に戻るか離婚するか決めさせようと思っています」

若い世代ほど、上の世代を見ていて、結婚すると男のほうが「損をする」と思っているのかもしれない。本当の意味で、男女が対等になるのはまだまだ先のことになりそうだ。

▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

亀山 早苗(フリーライター)