主人公のヨハンとミヒの兄妹は、在日朝鮮人の帰還事業で北朝鮮に渡った両親とともに平壌で幸せに暮らしていたの。ところがある日、父親が政治犯の疑いをかけられて逮捕されちゃう。それだけじゃなく、兄妹と母親は連帯責任を負わされて、政治犯が収容される強制収容所にぶち込まれちゃうの。大人のみならず小さい子どもも強制労働させられて、食料はほんの少し。極寒の地で暖房やお風呂のないボロ小屋生活。おまけに収容者のなかには、看守に密告することで地位を得ている者もいて、いつ何時貶められるかわからない四面楚歌。最凶最悪の状況で、兄妹は育っていくのよ……。もう、これだけでも胸が苦しくなるってのに、なんとこれ、序盤なの。物語のメインとなるのは、その後のヨハン。このスチール写真のように可愛いヨハンは、収容所の荒んだ生活ですっかり別人に。密告しまくりのグループに入って闇落ちしてるのよ。心の底では、闇落ちしていることを「食料確保のため、母と妹のため」と言い聞かせているけど、実際は仲が良かった収容者にも暴力的に。そんなある日、彼のしでかしたことをきっかけに事件が勃発し、最愛のお母さんに危険が……。ううう、もうコレ以上は言えませんわ、つらすぎて……。

こうしてストーリーを語るだけでも悲劇に次ぐ悲劇なんだけど、実際に作品を観ると、観終わるまではかなりスルスルとのみ込めちゃうのよ。なぜって? それはアニメーションだから。この物語をもしも実写で、役者さんのお芝居で描いていたら、途中で退席しちゃってたかもしれないほどよ。

お見事としか言いようのない最良の方法・アニメーションで、人権とはなに? 人間の生きる意味ってなに? ってことを教えてくれる良作。ただ悲惨な収容所の現実を描いているだけでなく、ユーモアのセンスがちりばめられているのも驚きよ。だって、にっちもさっちもいかない厳しい状況下にあったら、思い浮かべるのは「生への希望」だものね。だからこそ、登場人物ひとりひとりが、めちゃキャラ立ちしているし、訴えかけるメッセージも強烈。そうやって「人として正しく生きるにはどうするか」ってことまで言及しているのが素晴らしいの。

ちなみにこれはフィクションだけど空想の産物じゃないの。無数の資料と証言はもちろん、韓国や日本、アメリカなどに散り散りになった収容所を体験した脱北者や元看守へのインタビューも参考にしているんですって。誰か一人をモデルにするんじゃなくて、あらゆる人のエピソードを織り交ぜたみんなの物語。生きる意味と人権を学ぶチャンスよ。ぜひスクリーンで!

『トゥルーノース』 2012年のドキュメンタリー映画『happy‐しあわせを探すあなたへ』のプロデューサーの初監督作。監督・脚本/清水ハン栄治 声の出演/ジョエル・サットンほか TOHOシネマズ シャンテほかにて上映中。©2020 sumimasen

※『anan』2021年6月16日号より。文・よしひろまさみち

(by anan編集部)

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