「住まい」のカタチが変わると「暮らし」はそれに合わせて変わっていきます。自分らしく生きるための「住まい」についての実例集から、自身のライフスタイルを見直すヒントを探してみませんか。理想をしっかりとイメージし、自宅をリノベーションしたり、建て替えたり、住み替えたりした12組の人々を訪ねた2022年7月発売の特集より、根津鉄平さん・根津円さん夫妻の住まいをご紹介します。

HOUSE FOR CHANGECOZY “GRAY AREA”

NAME

 Teppei & Madoka Nezu  

OCCUPATION

 Officeworker

 

家の外ではなく内側にバルコニーを複数設置。そこを家族が好き好きに過ごせる”居場所”にした、根津鉄平さん、円さんの家。
表通りに面した窓を開けると、こんなふうに外を向き中のバルコニーに腰かけることもできる。

 

室内バルコニーと、”ほんとう”のバルコニーと屋上テラスを持つ四角い箱型。正面に向かって左手に屋根の高いカーポートを設け、駐車+アルファにも使えるように空間を拡充。
左/屋上もあって、家々の屋根が続く向こうに突き出すスカイツリーを望める。右/低層の住宅街の角地である立地を生かし、どのバルコニーにも窓を付け、光と風が抜ける構造。

PROPERTY DETAILSーNEZU ’S HOUSE

  • 家族構成ー夫婦、子ども2人
  • 広さー敷地77㎡(建築48㎡、延べ床73㎡)
  • 築年数ー6年
  • 居住年数ー6年

家族が近すぎるくらいが下町らしいカタチ。

 ちょうど近くの神社で夏祭りが開かれていた。大人神輿と子どもたちの引く山車が、路地を練り歩く。その様子をひと目見ようと家から通りに出てくる人もいれば、物干し場から路地を見下ろす人もいて、小ぶりな家が密集して立つ東京下町のこのエリアはちょっとしたにぎわいだった。
 人と人、家と家との距離感が近く、ご近所付き合いが健在な、隅田川寄りの台東区。レタッチャーの根津鉄平さんは、生まれも育ちもこの辺りだ。「隣には親戚が住み、裏には幼馴染みの家がある。その幼馴染みとは互いに家を出ずして窓越しに会話ができる。そんな環境です。家族が各々部屋にこもり、距離を保つような暮らしはイメージできませんでした。だからたまたまこの土地に縁ができ、家を建てようとなったとき、建築家の方にオーダーしたのは『プライバシーはいらない気がします』ということだけでした。家のどこにいても、全体が見えるといいな、家族同士の気配が感じられるといいなって。それで出てきたプランが、『家の中にバルコニーを作る』だったときは驚き半面、その意図に膝を打つ思いがしました」
 根津邸の中の景色は、さっき見たばかりの”ご近所風景”を彷彿とさせる。風呂とトイレを囲む以外の間仕切りを排した、吹き抜けの平屋。その四方の壁に、本来外にあるはずのバルコニーが複数設えてあり、そこ越しに家族が交流できる作り。
「当初は箱の中に箱(個室)があるアイデアもあったようですが、それだと空間は分断されてしまう。建築家さんにはわが家がどこか”明け透け万歳!”みたいなオープンな一家に映ったみたいで(笑)。『小箱を開け、いっそバルコニー仕立てにすれば、この家族にぴったり合うんじゃないかと思った』と、聞いて、へぇぇぇ!となりました」
 今あちらのバルコニーでは妻の円さんが洗濯物を畳んでいて、こちらのバルコニーでは小学生の長女がベッドに腰かけソーダ水を飲んでいる。その長女に向かって、鉄平さんが、バルコニーの柵に手をかけつつ、午後の予定を尋ねるも……。生返事しか返ってこないからと、何度も呼びかけるその姿は、表通りに面した物干し場から、「ちょっと、ちょっと!」と通りを行く人に大声で話しかける、”下町のおじさん”風情なのだった。
「互いの姿は丸見えだし、対面での距離は近い。でもバルコニーごとにレベル差がつけられていることもあって、”曖昧な領域”が存在するんです。アプローチが別なので、相手がいるところまで行こうとすると、いったん階段を下りて、向こうの階段を上って……という、ちょっとした手間もかかります。それもあって、うまいことゾーニングがされているんですよね」と、円さんは笑う。
 一方で、夜型の鉄平さんにはこんな悩みも。
「そろそろ寝ようかという時間になると、家じゅうの電気を消すんですが、真っ暗な中、PCを立ち上げると、モニターの光が家族が眠るバルコニーまで届いてしまうんです。時折「眩しい!」と怒号が降ってきて、冷や冷やです(笑)」
 鉄平さんが首をすくめる脇から「それでもここが私たち史上最高の間取りだよね」と円さんがすかさず合いの手を入れた。バルコニー越しのそんな小気味よい掛け合いが、この家では続いていく。

 

天井まで距離があるバルコニーにはひさしを付け、「ささやかなプライベート感」を確立。バルコニーの下は玄関ホールだったりバスルームだったり。
大きい戸(右)は玄関で、小さい戸(左)は勝手口。勝手口はキッチンにつながっている。
壁に掛けられた法被が似合う、土間づくりの玄関。
表通り側の、ハンモック用バルコニーの窓からは通りの向こうの方まで見渡せる。神輿渡御行列に参加しようと駆けていった長女の後ろ姿を、夫妻が見つめていた。

  PROFILE

根津鉄平 根津 円 会社員

鉄平さんは制作会社で広告画像などのレタッチメントに従事。円さんは営業事務に就く。自宅の設計は建築家の保坂猛に依頼した。

 

photo : Ayumi Yamamoto edit & text : Koba.A

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