落ちている。床に猫が落ちている。それは気候が暖かくなってきたことの報せ。

しらすと暮らしてもうすぐ8年。猫の落ち着く体勢の変化で季節を知ることができるとは、暮らしはじめた時には予想もしていなかった。冬は寒くなればなるほど丸く、もしくは四角く(いわゆる香箱座りというやつ)なり、ふわふわに覆われた毛の中の温かさを逃さないようにしている。そして、季節が進み暖かくなればなるほど、まるで液状化したように床にのびのびと横たわっていたり転がっていたりして、おそらくこもった熱を発散しているのだ(同居人調べ)。

基本的に猫は物音をあまり立てない。ただ、気配を感じることはある。別の部屋にいてもなんとなくいつもいる場所は同じだからわかるはずなのに、「あれ、今どこにいるんだろう」と思い、部屋を見回って探しに行くことがある。そんな時は、基本床にポトリと落ちている感じでぼんやりしている。座っていない、落ちているという言葉がふさわしい形で。

人間で言うと仰向けのような形で、なぜか手や足を上に挙げたまま天井や窓の外を眺めていたり、ひねりが効いたポーズで静止しているときがある。お腹も丸出しでリラックスしているような様子。猫の考えていることは常々気になるが、この瞬間が特に何を考えているんだろうと気になる。縁側で人間がぼーっとするような癒しの時間が流れているのでしょうか。そうだったとしたら、とても風情があるように見えてくる光景。


しらす しらす

モデル・小谷実由さんと暮らすしらす。名前の由来は、グレーの背中の真ん中に白い毛が生えている様子が、背中にしらすを乗せて歩いているように見えたことから。跳ね上げアイラインのような丸い目で美猫と思われがちだが、本当は舌が年中出ているおとぼけ猫。同居歴は7年目。特技は引き戸を人間と同じようにガラリと開けること、住み慣れた場所を初めて来たような顔でうろうろすること。本誌2022年7月号にて、わたなべとしふみさんによるしらすの紹介イラストを掲載しています。