『泣きたい私は猫をかぶる』『雨を告げる漂流団地』などで知られるスタジオコロリドによる長編作品第4弾『好きでも嫌いなあまのじゃく』が2024年5月24日よりNetflixにて世界独占配信、同時に劇場公開される。

山形県に住む高校1年生の八ツ瀬柊と、人間の世界に“母親を探しに来た”という鬼の少女・ツムギ。ふたりが出会い、共に旅をする様子を描くのが本作だ。監督は『泣きたい私は猫をかぶる』で長編デビューを飾った柴山智隆が担当。柊役を小野賢章、ツムギ役を富田美憂が演じることが発表されており、大きな注目を集めている。

アニメ!アニメ!は主演を務める小野賢章、富田美憂にインタビューを実施。自身が演じるキャラクターの魅力や、本作の見どころについて聞いた。

[文=一野大悟 撮影=Ayumi Fujita]

■柊とツムギ――対照的なふたりの印象は?


――今回の出演はどのような経緯で決定したのでしょうか?

富田:本作はオーディションではなく、全キャスト指名でオファーがされていたようです。なので、私たちも直接オファーをいただきました。

――そうなんですね。配役されたキャラクターを見たときのお気持ちは?

小野:まず最初に思ったのは「若い!」ということでしたね。僕自身、近年は自分の年齢に近いキャラクターを演じることが増えていて、そんな中で今回いただいた柊は高校1年生、ついこの間まで中学生だったわけですよ。その年代の子が発する高い声が出せるのかはすごくドキドキしました。

富田:私はツムギの声の高さは問題なく出る自信があったのですが……これまでこのような全世代向けの映画に出演したことがないんですよ。にも関わらずオーディションもなくツムギ役でオファーをいただき、「本当に私でいいのだろうか?」と不安は感じました。

――スタッフの方から選ばれた理由を聞くことはありましたか?

小野:もともと僕は『泣きたい私は猫をかぶる』で柴山監督とご一緒させていただいていたんです。「奥底に何かを思っているような、深さのある声」と評価いただき、今回オファーをしてくださったと聞きました。

富田:私の場合、「力強さがある一方で、ツムギが持つ“繊細さ”も兼ね備えた声を持っている」というのが、お声がけいただいた理由とのことでした。

――なるほど。お互いの演技を聞いてみていかがでしたか?

小野:富田ちゃんが発する言葉にはパワーがあるんですよ。物語序盤、柊はツムギの言うことに振り回されることになる。富田ちゃんの声で喋るツムギを見ると、柊が振り回されるのも理解できると思いました。

富田:賢章さんの演技の魅力は素朴さにあるんじゃないかと。柊はクラスによくいる普通の少年で、見ていて親近感を感じさせるんですよ。そこに賢章さんの声が乗ることで、彼が一層馴染み深いキャラクターになったと思います。

――そんなツムギ、柊を演じてみての印象もお聞かせください。

小野:柊は決して暗いわけでも引っ込み思案なわけでもない。にも関わらず友達と呼べる相手がいないところにまず目が行きましたね。その原因は彼の“変に空気を読む癖”にある。その癖のせいで人の懐に入り込むことができず、なかなか人と打ち解けられないのではないかと思いました。

富田:ツムギは柊とは対照的に天真爛漫で、言いたいことははっきりと言える女の子。同時に、頭で考えるよりも先に行動に移してしまうタイプだと思いました。ただ「ちょっと敬語が苦手なのかな?」という印象も受けましたね。柊が敬語を使っている場面でも、ツムギはタメ口のままという瞬間は散見されましたから。

小野:ツムギは、知らない人相手でも積極的にコミュニケーションが取れるんですよね。そこは柊にとっては最も苦手とするところなので、知らない人に対してもガツガツいけるツムギを見て柊は羨ましさを感じていたと思います。

富田:逆に柊が持っている“常に周りを客観視する力”は、ツムギにはない部分なんですよね。私自身は彼の振る舞いを見ながら「15歳の私にあれはできなかったな」と思っていました。ただ、周囲を客観視しすぎるあまり行動できなくなる柊を見て、ツムギはイライラもしていたんじゃないかと。

――ちなみに、おふたりは柊とツムギ、どちらに近い性格だと思いますか?

小野:それがふたりとも柊なんですよ。なので僕らふたりで旅すると、そつがないものになると思う。本作のようなハプニングは一切起こらないでしょうね(笑)。

富田:そう、粛々と何ひとつトラブルのない旅ができると思います。それを考えると、今作の旅路が出会い多いものとなったのはツムギのおかげな面もある気がする。

小野:それは大いにあると思いますね。ツムギのペースに柊はひたすら巻き込まれた感じだったし。

富田:ツムギみたいな子は大人だらけの世界ですごくかわいがられるんですよね。私の弟もツムギタイプだった。なので大人から「お前かわいいな!」など言われていたんですよ。そういう子が躊躇なく大人の世界に入っていけるのはわかる気がします。

――柊は不慣れな大人だらけの世界でかなり頑張った感じがありますね。

小野:そうなんですよね。そんな不慣れな世界で頑固に自分の意志を貫く姿も見られた。あれは柊の意外な一面でしたね。

――でも、ツムギとここは似てる!という共通点はありますか?

富田:おいしいものが好きなところですね! 満面の笑みで「ウマし!」と言うツムギを何度か演じましたが、私もおいしいもの食べていると幸せなので「気持ちわかるな」と思っていました。

小野:僕の場合、ある種の遠慮のなさがツムギと似ているかもしれません。皆でご飯を食べに行くと、最後の1個が残ったりするじゃないですか。そういうときに遠慮なく食べます(笑)。

富田:ツムギって大勢でエレベーターとか乗ってても真っ先に降りそうな気がしない?

小野:あ、それは僕も降りちゃうかも(笑)。



■旅に出て変化していくふたりの気持ち
――柊は、ツムギの「お母さんを探しにいく」という旅に同行することになりますが、なぜツムギについていこうと思ったのでしょうか?

小野:ツムギが柊のことを特別だと言ってくれた。ほかでもない自分に一緒に旅をしてほしいと頼んでくれたことが、柊を行動させる大きな理由になったと思います。学校の友達は皆「誰でもいい、ただ柊が親切だから」という理由で彼を頼る。でも、ツムギは違った。そこが彼にとって本当にうれしいことだったのではないかと。

――当時、ツムギも柊を特別だと言ったのは本音なのでしょうか?

小野:いや、それはないと思いますね(笑)。口では「柊だけが特別」みたいなことを言いますが、あれはただの演技だと思う。柊はツムギの手のひらで転がされていた感じがしますね。

富田:賢章さんの言う通り、当時のツムギは頼れれば誰でもよかったんだと思います(笑)。ただただ柊が喜ぶ言い回しを選んだだけ。ただ、旅をする中で徐々に柊が特別な存在に変わっていく。そこも本作の面白さだと思うんですよ。

小野:対する柊も、旅の中でツムギを一層特別な存在だと感じるようになる。ツムギに対して「何かしてあげたい」という気持ちを感じられるシーンは多くありました。

――本作はツムギ、柊と親の関係も印象的でした。

小野:柊で言うとお父さんとの関係は印象的でしたね。決して仲が悪いわけではない。ただ、お父さんに過保護な面があり、自分の考える道を子供に歩ませようとしている部分があるんですよ。それに対して柊は「自分が大切にされていない」と感じている。ツムギと共に旅に出たのも、自分の考えを理解してほしいという親への反抗心もあってのことだと思います。

富田:近い想いはツムギも母親に対して感じていたんじゃないかと。お母さんに注目されたいし、もっと心配してもらいたい。そんな想いを抱えているから、母親を嫌っているかのような態度を取るんですよね。にも関わらずお母さんを探して旅をするのは、そこに愛があるからだと思います。

――本作を通して受け取ったメッセージはありますか?

富田:私が感じたのは「親も人間なんだ」ということでした。私自身、反抗期がひどくて。親に対して「こんな家に生まれてこなければよかった!」と言い放ったこともあるんですよ。それを聞いて泣いている親を見て「なんで泣いているんだろう?」と思った。あれから時を経て本作に触れ、当時の親の気持ちを少し理解した気がします。その結果、「あんなこと言われたら泣くよな……」と思うようになりましたから。

小野:言いたいことは我慢せずに言ったほうがいい、それも本作が持つメッセージのひとつだと思いましたね。今作で描かれるのは、言いたいことを溜めすぎた人は鬼になってしまう世界。それは我慢のし過ぎで爆発してしまう人々のメタファーだと感じました。

――最後に、本作を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いしたいです。

小野:ツムギと柊、ふたりの旅路を描くロードムービーのような作品になっていると思います。その中で出会うのも魅力的な人ばかり。その様子を見ていると感化され、視野も広がっていくと思います。多くの人に見てほしい作品です。

富田:新年度が始まってから1ヶ月ちょっとで公開となる本作。タイミング的に新しい人間関係に悩んでいる人も多いと思います。そんな中で、本作が見た人に勇気を与え、悩みを解決する糸口になるとうれしい。ぜひご覧ください。


【作品概要】




映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』

配信&公開:5月24日(金)より、Netflixにて世界独占配信&日本劇場公開


出演:小野賢章、富田美憂、浅沼晋太郎、山根 綺、塩田朋子、斎藤志郎、田中美央、ゆきのさつき、佐々木省三、日高(高ははしごだか)のり子、三上哲、京田尚子 他
主題歌「嘘じゃない」/ 挿入歌「Blues in the Closet」 ずっと真夜中でいいのに。(EMI Records)


STAFF
・監督:柴山智隆 ・脚本:柿原優子/柴山智隆
・キャラクターデザイン:横田匡史 ・キャラクターデザイン補佐:近岡 直
・色彩設計:田中美穂 ・美術監督:稲葉邦彦 ・CG ディレクター:さいとうつかさ ・撮影監督:町田 啓 ・編集:木南涼太
・音楽:窪田ミナ ・音響監督:木村絵理子
配給:ツインエンジン・ギグリーボックス
企画・製作:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
(C)コロリド・ツインエンジン