公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「eスポーツ選手の食生活」

 Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。通常は食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「eスポーツ選手の食生活」について。

 ◇ ◇ ◇

 これまでのスポーツとはまったく異なる競技「eスポーツ」。海外の栄養士から「eスポーツの選手たちもよいパフォーマンスを発揮するために、健康管理をしっかりしている」と聞き、彼らがどんな食生活を送っているのか、その取り組みについて調べてみました。

 eスポーツの場合、身体的な競技特性の一つに「スクリーンの前に長時間、座っている」という点が挙げられます。eスポーツの優れた教育プログラムを持つことで知られる、アメリカ・カルフォルニア大学アーバイン校では、eスポーツ選手に関わる様々な調査・研究を実施。臨床運動生理学者で、大学のeスポーツチームのパーソナルトレーナーを務めるヘイレッシュ・パテル氏によると、大学のeスポーツの選手の1日の座位時間は10〜14時間であり、アメリカの成人の平均座位時間(6.5時間)を大幅に超える、とのことです。

 テレビの視聴時間が長くなると、全死因死亡率が高くなり、健康面での様々なリスクが生じることは、オーストラリアで行われた研究によりわかっています。ほか、目の酷使や手首や肩のケガ、世界各国で大会が行われるため海外遠征による疲労など、多くのストレス要因にさらされる環境は、他の競技スポーツと一緒です。

「座っているだけではないか」と思われる方もいるかもしれませんが、選手たちにかかる肉体的・精神的なストレスは甚大です。そのため、多くの選手は20代のうちにキャリアを終え、「燃え尽き症候群」の状態になる人も少なくない、とのこと。以上のことから、運動、質のよい睡眠、バランスの取れた食事、そしてストレス対策のためのメンタルケアなど、欧米のプロチームは選手の日々の健康管理に力を入れるようです。

 例えば、ロサンゼルスに拠点を置くeスポーツのチーム、CLG(Counter Logic Gaming)の選手たちは、1日のうち12時間をパフォーマンスセンターで過ごしています。練習やミーティングのほか、朝は運動やヨガを行い、1日3食の食事もセンターで摂っているとのこと。センターのシェフ、アンドリュー・タイさんはインタビューで、「選手たちは長時間スクリーンの前で過ごすため、エネルギーの持続がカギ。高たんぱく質・低炭水化物の食事を心掛けている」とコメント。炭水化物は重要なエネルギー源であるが、適量を摂れるよう配慮しているそうです。

スクリーンの前で長時間練習「疲労感を和らげることは非常に重要」

 象徴的だったのが、朝食のメニュー。脳のエネルギー源となる主食には、ハイプロテインパンケーキやマッスルマフィン、オートミールを用意。パンケーキやマフィンにはプロテインパウダーなどを加えて高たんぱく質に。

 また、オートミールは食物繊維が多く、GI値が低いのが特徴。食後の眠気の防止やエネルギーの持続に優れています。ほか、おかずにはベーコンや卵などが用意され、一日のスタートに炭水化物とたんぱく質をしっかり摂れる献立になっています。

「長時間、スクリーンに向かって練習することに伴う疲労感を少しでも和らげることは、非常に重要」とシェフのタイ氏。ストレスにより、体内の栄養素は消耗されます。そのため、1日3食を通し、バランスのよい食事となる配慮もされているそうです。

 また、豆腐をパン粉で揚げたものやビーガン・ラザニアなど、肉を使わないプラントベースド(植物性食品)のメニューを、積極的に出していることも印象的。選手の健康だけでなく、環境への配慮がなされている点は、アメリカらしい取り組みを感じさせます。

 eスポーツは新しいジャンルです。選手たちが最高のパフォーマンスを発揮するにどんな食生活が適しているのかは、今後、さらに研究が進むなかで明らかになってくると思います。

 そして、eスポーツの世界は選手もファンも非常に若い世代が中心です。トッププレーヤーの姿を通して、子どもや学生が食の大切さを学ぶ、よいきっかけになるかもしれない……と期待をしています。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。