公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「『True Sport』セミナーをレポート」

 Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。通常は食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「『True Sport』セミナーをレポート」。

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 以前、この連載で取り上げた、アメリカのアンチドーピング機構が運営する組織「True Sport」。勝利至上主義から脱し、子どもたちにとって、よりよいスポーツ環境を目指すこの組織では、昨年、スポーツをする子どもと保護者、そして指導者を対象としたオンラインセミナーを開催。コンディショニング、スポーツ栄養、メンタルヘルスなどの講義が行われました。

 今回は、「True Sport」で栄養教育を行っているスポーツ栄養士(Kristen Ziesmer)のセミナーより、アメリカの育成年代の子どもたちに向けた栄養バランスのガイドラインについてお話ししましょう。

 アメリカではバランスの取れた食生活を実践に移すために、1回の食事で摂る食品とそのおよその量(割合)を一枚の大きな皿に示すイラストをよく使用します(日本では、厚生労働省と農林水産省が共同で作成したコマを使ったイラストが使われています)。栄養素をシンプルに可視化することで、日々、「何を」「どのぐらい」食べればよいのかが一目でわかる、というわけです。

「True Sport」のセミナーでもこちらを使って、運動量の変化に対応した栄養バランスをレクチャー。具体的には、以下の通りです。

【中強度の運動を行う日(練習日)】

 通常の練習日は、大皿の1/4は脂質が少なくたんぱく質の豊富な食品。残り3/4の内半分は全粒穀物(主食)、半分は野菜と果物。さらに補食として新鮮な果物を摂る。

【試合日】

 試合日などハードに運動をする日は、大皿の半分(1/2)を穀物(主食)にする。1/4が新鮮な野菜と果物、残りの1/4は脂質が少なくたんぱく質の豊富な食品。さらに補食で新鮮な果物を摂る。

【オフ・軽い練習の日】

 運動をしない日や軽く体を動かす程度の日は、大皿の半分(1/2)を新鮮な野菜と果物に。1/4が全粒穀物(主食)、残りの1/4は脂質が少なくたんぱく質の豊富な食品にする。

 実はこの大皿を使ったイラストは、外国人コーチ陣や選手たちの間でも分かりやすいと好評。私がサポートしているトップリーグのロッカールームにも、ポスターが貼られています。

セミナーで触れられた「ヘルシースナック」の大切さ

 さて、講義のなかでは、スポーツをする子どものバランスの取れた食生活の中で、「ヘルシースナック」の補食とサプリメントではない食品(Real Food)から栄養を摂ることの大切さについても触れられていました。

「ヘルシースナック」とは、たんぱく質や食物繊維、カルシウム、糖質などが補給できる食品を指します。

 代表的な食品として挙げられるのは、ピーナッツバターをたっぷりぬったサンドイッチ、ナッツ、ヨーグルト、グラノーラバー、牛乳、チーズ、果物。日本でいえば、ピーナッツバターのサンドイッチの替わりにおにぎりや海苔巻き、いなり寿司、肉まん、あんまんなどが良いのではないでしょうか。

 また、主食に関しては試合前を除き、全粒穀物のパンや、パスタ、米を選ぶことを勧めています。

 全粒穀物は精製された穀物と比べ、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富です。一方で繊維質が多いので、消化に時間がかかります。そのため、試合前はパフォーマンスに影響しないよう、消化によい白米や精製されたパンにパスタ、じゃがいもを摂るように勧めています。

 そして、全体的なポイントとして挙げていたのが、「可能な限り加工食品を避け、精製されていない食品を選ぶ」ことの大切さです。これも、冷凍食品をはじめ加工食品を日常的に食べるお国柄ならではのアドバイスといえるでしょう。

「True Sport」の講義とアメリカの育成年代に向けた栄養のガイドラインをみて感銘を受けた点は、サスティナブルな食環境への知識や考え方が、当たり前に組み込まれていた点です。

 栄養バランスの指標となる大皿のイラストには、穀物、たんぱく質の豊富な食品、野菜・果物、それぞれに「どんな食品を摂るか?」も示されていますが、内容は「脂質の少ない肉を食べましょう」といった栄養素の観点からのアドバイスに留まりません。

 植物性たんぱく質は、「穀物、豆、キヌア、豆腐など地球環境に優しいものを摂りましょう」。動物性たんぱく質は、「平飼いの鶏の卵や鶏肉をなるべく選ぶ」「穀物ではなく草を食べて育ったグラスフェッド(放牧飼育)の牛や豚をなるべく選ぶ」とあります。

 これらは動物福祉の観点から、生産効率を重視したものを買うのではなく、健康的に飼育をされているものをなるべく選びましょう、という考え方からきています。たんぱく質は大前提として「動物性と植物性のものを1/2ずつ摂りましょう」とも書かれていますが、これも地球環境に配慮し、温室効果ガスの排出につながる動物性たんぱく質を減らしましょう、という考えの表れです。

 ほか、主食には「じゃがいもやパンはなるべく、地元の畑で採れたもの、地元のベーカリーでつくられたものを選ぶ」、野菜と果物は「缶詰ではなく、なるべく新鮮な旬なものを選ぶ」とあります。これは「地産地消」の考えであり、「ファーマーズマーケットなどで、地元の農家の人に季節の野菜を教えてもらいましょう」といったアドバイスも記してあります。

胸を打たれた「勝つために何を食べるか」だけではない食教育

 環境や動物に配慮したエシカルフードを選ぶことが、結果的には地元の農家や地域産業、そして地球の環境を守ることにつながることを、食事を通して子どもたちに伝えていく。

「True Sport」というスポーツをする子供たちを見守る団体が率先し、「勝つために何を食べるか」だけでなく、「人として食にどう向き合うか」という食教育を行う姿勢には胸を打たれます。

 今は「食べたいものだけ食べる」「買いすぎた食品を捨てる」という食べ方は、改める時代です。こういった形の食育が他国のスポーツ界ではすでに始まっているということを、日本のスポーツ界も意識し、積極的に取り組むべき段階ではないでしょうか。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。