「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#58

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる多様な“見方”を随時発信する。開催を巡る是非が問われる中、幕を開けた今大会。来日した「海外記者のミカタ」も紹介する。

 第5回は米紙「シカゴ・トリビューン」のベテランスポーツ記者、ステイシー・セントクレアさん。2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと夏季3大会、2014年ソチと冬季1大会の五輪取材経験を持つ。東京では水泳、野球、レスリング、バレーボールなどを取材予定というステイシーさんに「ニッポンの公共交通機関」について聞いた。(取材・構成=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

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 待ちに待った日がやってきました。来日から2週間が経ち、毎日健康状態を入力しているアプリに「Cleared(条件達成)」の文字が表示され、赤が基調だった画面の色が緑に変化。ついに公共交通機関を使って、プレスセンターや競技会場へ出掛けられるようになりました。まさにアメージングの一言。私の五輪取材生活は一変しました。

 これまでは大手町エリアにある宿泊ホテルからメディアバスに乗り、まずは有明にあるプレスセンターまで約40分かけて移動。プレスセンターから新国立競技場へ行くにも、バスで1時間近くかかることもありました。が、地下鉄に乗れるようになった今は、プレスセンターに寄らずに競技会場へ直行が可能。さらに、新国立競技場だったら、ホテルから徒歩5分ほどにある地下鉄の駅・G12(銀座線・三越前)からG3(外苑前)まで20分足らずで到着。移動時間が大幅に短縮できたことで原稿執筆の時間が増えた上に、メディアバスの時間を待たずにホテルに帰って一息つく時間もできました。
 
 日本の公共交通機関は世界一だという噂は聞いていましたが、その期待は裏切られるどころか、感動の連続です。きれいだし、時間通りに運行しているし。日本の皆さんには当たり前のことかもしれませんが、アメリカの中では電車とバスが充実していると言われるシカゴでも、時刻表はあってないようなもの。特にバスは渋滞の具合によって、同じ路線のものが3台続けて来たかと思ったら、その後は1時間も来ないということも日常茶飯事です。同行するカメラマンは「シカゴに帰る時に、この電車を一緒に持って帰りたいよ」と言っていたほどです。

隔離終了で取材は全くの別物に「ようやく真の五輪取材がスタートした」

 街や駅の案内表示には英語表記も添えられているので、迷子になる心配もありません。来日経験のある友人に地下鉄は複雑だから気を付けるように言われてきましたが、事前にもらった地下鉄の路線図があれば大丈夫。あのクオリティの高さにはビックリしました。乗り換えがしやすいように、何号車に乗ればいいかというアドバイスまで書いてあるなんて! 地下鉄はメディアバスより全然空いていますし、海外メディアより日本の皆さんの方がしっかりマスクを着用しているので、感染リスクに対して感じるストレスも減りました。

 地下鉄に乗るようになった利点の1つは、ようやく東京の街の雰囲気を肌で感じられるようになったことです。いわゆる“バブル”の中では、街の実際の声はなかなか伝わってきません。日本人メディアと交流することもありますが、彼らを一般市民の代表と見ることはできません。五輪期間中、東京の街は実際どういう状況なのか、日本の皆さんはどう受け止めているのか、とても気になるところでした。

 外苑前駅から新国立競技場へ歩く途中に、五輪モニュメントがあります。週末にはたくさんの人が記念撮影をしていましたし、公式グッズショップも賑わっていました。東京は緊急事態宣言下ではありますが、やはり日本の皆さんは五輪開催を楽しみにしていたんだと感じました。

“バブル”の外に出て、東京に住む人々の日常生活に足を踏み入れたことで、コロナ禍がなければどんな五輪になっていたのか、その一端が垣間見られたように思います。きっと日本の皆さんは世界各地からやってきた選手や関係者を温かく迎え入れ、日本代表選手に心から盛大な応援を送り、東京の街は大いに盛り上がったことでしょう。長い間をかけて準備を進めてきた日本の皆さんが心ゆくまま応援できない現実は、ただただ残念に思います。

 これまで伝わってこなかった街の熱気や盛り上がりを感じられたことで、私にとっての五輪取材は全く別物になりました。当然のことではありますが、やはり取材は自分の目で見て、肌で感じることが基本。すでに日程は半分をすぎましたが、ようやく真の五輪取材がスタートした気がします。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)