一人の記者が届ける「THE ANSWER」の新連載、第6回は女子ゴルフ・若林舞衣子

 2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」をスタートさせた。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、12月1日から毎日コラム形式でお届け。第6回は、女子ゴルフ・若林舞衣子(ヨネックス)が登場する。7月のツアーで出産後初優勝。長男の前で強さを見せた姿は、「社会に示せる女子ゴルフの価値」を感じた瞬間でもあった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 激闘のプレーオフもどこ吹く風。2歳の長男はグリーンを囲むギャラリーのはるか後ろ、ベビーカーの上でスヤスヤと眠っていた。優勝したママが温かい笑みを浮かべて歩み寄る。無数のフラッシュを浴びる中、愛息を抱きかかえた。「シーッ!」。口の前に人差し指を立てるジェスチャー。微笑ましい光景が広がった。

 7月のGMO&サマンサカップ最終日、出産後初優勝を遂げた33歳の若林が長男・龍之介君を抱っこしながら喜びに浸った。1週間前はプレーオフの末に2位で悔し涙。子どもの前で悲願を叶えた姿が、個人的には今年屈指の名シーンに映った。

 若林は2018年11月から日本女子プロゴルフ協会の産休制度を利用し、19年4月に第一子の龍之介君を出産。姉や会社員の夫のサポートを受けながら、昨年6月の20-21年シーズン開幕戦からツアーに復帰した。

「出産して復帰するまでの準備期間もそうですし、復帰してからもサポートがないとこの場に立てていない」。家族への感謝は忘れない。復帰に向けてスイング改造に挑戦し、飛距離がアップ。「結果で返すしかない」という気概で努力してきた。1988年のツアー制施行後、出産後に優勝したのは6人目の快挙。龍之介君が初めて応援に駆けつけた大会でもあった。

 ツアー通算4勝目を挙げるまで復活したことは、言うまでもなく素晴らしい。ただ、「ママ選手が優勝」という事実が脚光を浴びるのは、それが珍しいことの裏返しでもある。そもそも出産を経て復帰する選手が少ない。

 理由は育児とアスリート業の両立が難しいことはもちろんだが、復帰しやすい環境であるとは言い難いところにもある。日本社会全体でも、会社内の託児所設置や男性の育児休暇など徐々に進んでいる。しかし、米女子ツアーが1993年から会場に託児所を設けた一方、国内トップのレギュラーツアー会場には今も置かれていない。

最終日の9番を終え、長男を見つけて手を振る若林【写真・浜田洋平】

ママ選手の増加が女子ゴルフの価値向上に、若林「若い世代も結婚、出産に1回悩む」

 若林が「ママ選手」として結果を残すことは、後輩たちの道を切り拓くためでもあった。今大会は2月に第一子を出産した横峯さくら(エプソン)も、復帰後3戦目で初の予選通過(49位)。1998年度生まれの黄金世代など、若林は最前線を走る若手に伝えたいことがあった。

「今、若い世代が出てきていて、絶対に結婚、出産について一回は悩むと思う。プロゴルファーにとって大きな決断だと思われていますよね。私やさくらさんが頑張ることで、結婚、出産をしてもトップで戦えると思ってもらいたい。『戻って来られるんだよ』って。それは復帰する時に思っていた。そのために、ただ復帰するだけじゃなく、しっかり結果を残したいと思っていた」

 勝って想いを述べたママゴルファー。最終日の前半終了時、9番グリーンを出たところで龍之介君を見つけると、ニコっと笑って手を振っていた。「『ママ凄いんだ』って思ってもらえるようになるまで頑張っていければ」。優勝争いの真っ最中。いろんなものを背負いながら戦う姿はカッコよかった。

 出産した女性の仕事復帰を「当たり前」にしようとしている時代。ママ選手が増えること自体が、「社会に示せる女子ゴルフの価値」を高めるのではないか。できることなら、今年屈指の名シーンをもっと見られるツアーになってほしい。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)