東京都内のマンションの駐輪場で、自転車カバーを破ったとして、器物損壊の罪で起訴された女性(51)に対し、東京地裁(河村宜信裁判官)が「破れが人による行為で生じたとの証明がない」などとして、無罪判決(求刑罰金10万円)を言い渡したことがわかった。判決は昨年12月6日付。検察側が控訴せず、確定した。

 女性の起訴内容は、2021年12月19日午前6時ごろ、駐輪場にあった自転車のカバーを、何らかの方法で破った、というもの。

 検察側は、防犯カメラ映像などをもとに、カバーは前日午後6時過ぎから、当日午前9時過ぎまでに破れ、その間にカバーに触れる機会があったのは女性だけだと主張した。これに対し、弁護側は、女性がカバーが掛けられていた自転車を移動させたのは間違いないが、カバーはその際に破れていない、などと反論していた。

 河村裁判官は判決で、カバーは全体として傷んでおり、起訴対象になった破れについて「そもそも人の行為で生じたとの証明がない」と指摘。防犯カメラ映像をみても、この破れがいつできたのかわからず、仮に女性が自転車を移動させた時に破れたとしても、故意に破ったと示す証拠はないと結論づけた。

■女性「事実と異なる調書つくられた」

 朝日新聞の取材に応じた女性によると、駐輪場の自転車を並べ直すことはあったが、カバーの破損は心当たりがなかった。警察に呼び出され、「防犯カメラにあなたがカバーを切っている姿が映っている」などと言われ、最終的に「自転車カバーを足で踏んでしまい、破けるかもしれないと思いつつ自転車を移動させて破いた」と、事実と異なる供述調書が作られた、という。その後に略式起訴されたが、正式裁判を申し立てて争っていた。

 警視庁刑事総務課は取材に「個別事件の捜査内容に関しては回答を差し控えます」とし、無罪判決の確定は「真摯(しんし)に受け止めております」と答えた。

 法務省や最高裁の統計によると、検察庁が22年に全国で起訴した22万7597人のうち、約7割の15万8531人が、正式裁判を経ずに非公開で罰金などを科すよう裁判所に求める略式起訴だった。今回の女性のように、略式起訴後に正式な裁判が起こされたのは、22年の1年間で343件だけだ。(田中恭太)