山口県内で医師の全体の数は増えているものの、若手医師は減っている――。県医師会は4月の記者会見でこんなデータを明らかにした。今年度、時間外労働に上限が設けられる「医師の働き方改革」が始まった。時間外救急の態勢の逼迫(ひっぱく)を招かないよう、医療機関での診療時間内の受診を呼びかけた。

 県医師会によると、県内の医師数は1998年の3218人から増減しつつ、2022年は3508人と290人増えた。ただ、増加率は1割弱で、全国平均の38・2%を大きく下回る。

 45歳未満の若手医師についてみると、同じ時期で30・2%減っているが、全国平均は4.5%の増加。東京都は30.8%増えていた。

 今後、高齢化による引退が見込まれ、この傾向が続くと医師数は26年に3396人、36年に3237人まで減ると試算している。なかでも時間外救急を担う60歳未満の医師数は、22年の2199人から、26年に2004人、36年には1790人と減る割合が大きい。

 4月に始まった「医師の働き方改革」で、時間外労働の上限が原則として年960時間と定められた。厚生労働省の22年の全国調査によると、上限を超えて働く勤務医の割合は約2割に上る。こうした状況を踏まえ、県医師会の加藤智栄会長は会見で「重篤な患者の治療を優先させるため」として診療時間内の受診を県民に呼びかけた。

 時間外救急に携わる医師を確保しようと、県内の医療機関で今年度、新たな制度が始まった。時間外救急で診察した患者が入院した場合、1人あたり3千円を医師に支給する。

 県によると、64の救急病院や診療所などが実施する予定。県は3千円のうち1千円を補助することにしており、2万8千人分の2800万円を当初予算に計上した。加藤会長は、救急医療に積極的に携わる医師を評価する制度と説明し、「救急患者を診る医師が増えれば、県民にも恩恵がある」と話した。(青瀬健)

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 救急医療では、救急車の出動の増加が県内でも課題になっている。宇部・小野田保健医療圏内の3市長らは2日、救急車を含めた救急医療の適正利用を呼びかける「緊急アピール」を行った。

 宇部・小野田消防局によると、2023年の宇部市と山陽小野田市での救急車の出動件数は過去最高の1万1654件で1日あたり約32件。4件に1件は軽症だったという。

 また、搬送先が決まるまで病院との交渉が10回以上に及んだのは、5年前は年間5件程度だったが、23年は68件と大幅に増えた。

 美祢市の23年の救急車出動も過去最高の1647件。市外への病院や転院のための搬送が2割を占め、救急隊の負担が増えているという。

 篠崎圭二・宇部市長は「働き方改革によって救急医療に携わる医師が不足し、輪番態勢が組めなさそうな日が出てきている」と危機感を示し、必要性の薄い救急車の利用は「救える命が救えない状況に陥りかねない」と訴えた。

 県医師会などは、救急車を呼ぶべきか迷った際は、子どもの場合は♯8000、大人は♯7119の相談電話を利用するよう呼びかけている。