江戸幕府の老中・田沼意次(1719〜88)を研究して30年になる。

 郷土史研究家の関根徳男さん(70)は、田沼家の発祥の地、栃木県旧・田沼町(現・佐野市)で生まれ育ち、現在も暮らす。昨年までに意次の研究書7冊、系図集1冊を自費出版した。そして今年、「ライフワーク」と位置付ける研究に区切りをつけようと、自身の誕生日の2月に「小説版 田沼の改革」を自費出版した。

 「意次の研究にこんなにのめり込むとは思わなかった」と振り返る。

 小山高専(同県小山市)を卒業後、群馬県の電機会社に技術者として入社した。ただ、教員志望の気持ちが強くなり、仕事をしながら慶応大学の通信教育課程で学び、教員免許を取得。36歳のときに佐野市の中学校の社会科教員になった。

 意次の研究を始めたのは教員時代から。社会科の授業で教材として取り上げたのがきっかけだ。

 意次と言えば「賄賂政治家」のイメージができあがっていたが、文献を集めて研究を進めていくと、優れた財政の改革者だったことを知った。当時、旧田沼町でもマイナスイメージを払拭(ふっしょく)しようと顕彰活動が行われており、町に資料を渡すなどして協力したという。

 研究に本格的に力を注ぎ始めた43歳の時にがんになり、1年後に転移が明らかになった。「人生最後のつもりで、遺作として急いで書いた」と、45歳の誕生日の日に最初の著書となる「田沼の改革」を出した。その後、がんの影響で体調不良が続き、53歳で教員を退職。郷土史研究家としてスタートを切った。

 「意次の負のイメージを払拭して、本当の姿を知ってほしい、という思いでやってきた」。関根さん自身、意次の財政改革を高く評価し、「偉大なる改革者で明るい世の中を作った」と強調する。意次の評価は、すでに専門家の研究で見直されており、悪評は「政敵により作られた」と説明する。

 研究の途中で、自身の先祖が田沼家と血縁関係があることもわかった。意次の領地、相良藩があった静岡県牧之原市の関係者とも交流を進めた。

 「小説版 田沼の改革」は、意次が現代によみがえり、自身と協力して、地元田沼の商店街の復興や国が抱える課題に挑むストーリーだ。「意次の改革は現代にも応用できる」という思いを込めた。

 2025年のNHKの大河ドラマでは意次が重要人物として登場することが決まったとされている。「意次のポジティブなイメージが広がることを期待したい」と話す。

 意次が亡くなった年齢とほぼ同じになったことが、研究に区切りをつける決心につながった。今後は、次の世代に研究の成果を継承していくことに力を入れていくという。「意次の研究を若い世代に託したい」

 小説などの問い合わせは関根さん(0283・62・4332)。(上嶋紀雄)