霧島連山・硫黄山の火山活動の影響とみられる河川の水質悪化を受け、宮崎県えびの市の一部の水田で、今季の稲作が困難になる見通しになった。2018年の噴火後に水質が悪化した際は、段階的に範囲を広げて21年に全域での作付け再開にこぎ着けたが、再び試練を迎えている。

 市によると、えびの高原を源流とする長江川上流で今年2月以降、水素イオン濃度が強い酸性を示し、フッ素やホウ素も基準を大きく上回っている。市は今月10日、「安定的な水の利用ができない可能性がある」と、水田約66ヘクタールに作付けする159戸に文書で周知。上流から取水する岡元水利組合は13日の役員会で今季の取水を断念した。水が確保できなければ、稲の栽培は不可能になる。

 「またか」。水利組合の役員で、約6ヘクタールでヒノヒカリなどを栽培する同市浦の田口宏明さん(50)は沈んだ声だ。18年の噴火の際も、長江川で環境基準を超すヒ素が検出されるなどしたため、農家は農業用水が使えず、稲作を断念した。長江川が流れ込む川内川流域の鹿児島県伊佐市や湧水町でも、稲作に影響が生じた。

 田口さんも3年間作付けができず、計画的に収入が上げられるようになった矢先だった。数百万円の損害が想定されるが、「作付け前の断念で苗もキャンセルできる。経費が抑えられる分だけ、不幸中の幸いかな」。

 噴火後、宮崎県は2億4千万円超を整備に投じ、えびの高原に22年、石灰石を使って水素イオン濃度を中和する水質改善施設をつくった。しかし、昨年12月ごろから、施設の上流で噴出物の堆積(たいせき)が目立ち始めた。2月の水質悪化後に施設の沈殿池などの堆積物を取り除いたが、すぐにたまる状態で、施設の機能が低下しているという。

 20日は、河野俊嗣知事が施設を視察し、えびの市の村岡隆明市長から状況の説明や支援の要請を受けた。

 市によると、昨年は市内の約1800戸の農家が1120ヘクタールで水稲を栽培した。知事は「県を代表する米どころ。市などと連携して支援に努めたい。中長期的には代替水源の議論も必要になるかもしれない」と指摘。村岡市長は、農家が堆積物の影響が少なくなる下流域への同様の施設整備を要望していることを紹介し、「250年ぶりの噴火で、次は当分ないだろうと思っていたら(コメが)つくれなくなった。再発という事情を踏まえて国に対応してほしい」と話した。(中島健)