「起立」「ご指導いただきます」

 日直の合図が教室を穏やかな空間に変えた。賛美歌を歌い、聖書を読み、黙禱(もくとう)。あの頃と変わらない風景に笑い声……。

 福岡市南区の福岡女学院中学高校に18日、ことし50歳を迎える卒業生ら約70人が集まった。

 「人生2分の1」を記念した同窓会で、企画された「思い出授業」が始まった。

 「歴史を読み解いてみよう」

 教壇には日本史を教えていた山田慎一先生(61)が立った。卒業生が中学2年生の時、初めて担任となった。

 あれから30年以上が過ぎた。社会科目も変わった。いまは、近代の日本史と世界史を学ぶ歴史総合を教えている。

 山田先生は「世界史を教えられるか心配していたけど、面白いですよ」と語りかけ、大型プロジェクターに国旗を映しながら米国の成り立ちを解説した。

 卒業生らのまなざしがだんだん当時の生徒のように変わっていく。

 「思い出授業」を企画した一人、進藤真理さん(49)は「ポツポツと話す姿は変わらないなぁ」と笑った。

 「山田先生は私たちのことを『あなたたち』と優しさを込めて呼んでくれていました。『あーたたち』と聞こえるのは当時のままですが」

 山田先生は来春、定年を迎える。「初めて担任となったクラスの生徒たちと再会できて、感激した。授業が進むにつれ、名前と顔が一致していきました」

 次の授業は音楽だ。

 二田真知子先生(72)がキーボードで伴奏をひきながら、ハレルヤをコーラスで歌う。クリスマス礼拝で歌った、思い出深い曲だ。

 ソプラノ、メゾソプラノ、アルトに分かれた卒業生の歌声が教室に響き渡った。

 「イージー、イージー」「ついてこ〜い」「『ハ〜』で止めてみよう」

 二田先生の熱のこもった指導が続く。あっという間の30分。見事なハーモニーで締めくくった。

 二田先生は晴れやかな笑みを浮かべ、拍手でたたえた。

 歌いきった黒柳奈保子さん(49)の目からは涙があふれていた。「みんなで歌うだけだと思っていたので、熱血指導を受けられるなんて……。ハレルヤの『ハ』をはっきりと歌っていた昔の自分と重なった」

 2012年に定年、17年に校長を退任した二田先生は「目に見えない香りが残っている、ホッとする場所で、女学院が大切にしてきたハレルヤのコーラスをかなえられたのは幸せ。素晴らしい機会をいただいた」と話した。

 卒業生が通っていた、この校舎は今後、隣接する系列大学などが使用し、中高生の教室としての役目を終える。

 授業のあと、チョークボックスや階段の手すり、聖句といった校舎備品のオークションが開かれ、別れを惜しんだ。(前田伸也)