裏金事件で揺れる自民党と、立憲民主党が一騎打ちで争った衆院島根1区補選。全国屈指の「自民党王国」とされる島根の自民支持層は、どのような思いで一票を投じたのか。

 自民の細田博之前衆院議長の死去に伴う島根1区は、自民新顔の錦織功政氏(55)と立憲前職の亀井亜紀子氏(58)が立候補した。

■裏金事件で立憲・亀井氏に

 自民党支部で選対事務局長も務めたこともあるというサービス業の男性(70)は今回、亀井氏に投票した。前回は細田氏に投票し、地方選でも自民候補に票を入れてきたという。しかし、「政治とカネ」の問題などがあるなか、「(党が)あまりに旧態依然としていて、変わろうともしていない」と憤る。「今も自民支持層か」との問いに、首を横に振った。

 自民支持者が今回は亀井氏を選んだ背景にあるのは、自民党派閥による裏金事件だ。

 松江市の男性会社員(35)は今回初めて自民以外の候補者に票を投じた。

 裏金問題が明らかになって以降、国会での答弁に注目してきた。「首相だけでなく各大臣の答弁があまりにもひどい」と感じた。子どもを育てる親として今のままの政治ではいけないと思い、亀井氏への投票を決めた。「今も自民支持は変わらない。でも、子どもが安心して住める日本にするために少しでも変わってほしいんです」と語った。

 今も自民支持と語る自営業女性(33)も亀井氏へ投票。政治とカネの問題が理由だとし、「自営業でこちらはきちんと確定申告をしている。お金をごまかす今の自民はどうしても許せない」。

 長年、自民党を支持していた松江市の自営業男性(86)は「自分らのことだけでなく、物価高で苦しむわしら貧乏人のことも考えてほしい」と亀井氏に投票した。ただ、亀井氏に投票したことは「大きな声では言えない」。「町内には50世帯くらいあるが、『やっぱり自民党に投票する』と言う家がほとんどだ」と声をひそめた。

■旧統一教会との関わりも判断材料に

 「政治とカネ」の問題以外に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関わりを投票の判断にした有権者もいた。

 前回は細田氏に投票した会社員男性(68)は、亀井氏へ一票を投じた。一番の理由は、細田氏が旧統一教会との関わりを十分に説明しないまま亡くなったことだ。「批判を真摯(しんし)に受け止めていないと感じた。自民党候補が当選すれば、県民が裏金や統一教会の問題を許していると思われてしまう」と話した。

■逆風でも自民候補に投票した理由

 一方、裏金事件などで自民が逆風にさらされても、今回も自民候補に投票した人たちも少なくない。

 松江市の飲食業の女性(50)は以前から自民を支持し、今回も錦織氏に一票を投じた。「島根といえば、自民党。支持の理由を聞かれると難しいが、自民の政治家でなくなってしまうと、地域がこの先どうなるか見通せない気がして不安だ」と話した。

 裏金事件や旧統一教会の問題が発覚したが、「どの党も多かれ少なかれ問題はある」と指摘。亀井氏の演説も聴いたが自民批判が多く、「島根をこう変えたい」という思いが感じられなかったため、自民支持を続けることにしたという。

 松江市のパート従業員の男性(74)も錦織氏に投票した。「他の国と比べて平均以上の暮らしができていると思うので、経済政策や外交を評価している」と話す。

 民主党への政権交代は「期待はずれだった」と感じ、自民が安定して政権を担うことが望ましいと考えているという。裏金事件については、「良い反省材料にして改革を進めてもらえれば良い」とした。

 自民支持を長年続けてきた御神本(みきもと)広明さん(74)は「島根と近い選挙区の岸田首相に頑張ってもらいたい」という思いで錦織氏に票を投じた。「政治とカネ」の問題も、「反対してばかりの野党では意味がない」という思いが強く、他の候補者は選択肢とならなかった。

 松江市の看護師女性(58)は前回、細田氏に投じたが、政治とカネ、旧統一教会とのつながり、セクハラなどの問題が「気になっていた」。本人であれば今回は入れないかもしれないが、「新しい人に改善していただきたい」と錦織氏に投票した。演説で党の現状を批判していた点で「人柄に期待できそうだから」と語った。(箱谷真司、根本快、魚住あかり、原田達矢、中川史)