球の投げ過ぎなどが原因で、成長期の子どもたちを中心にひじを痛める「野球ひじ」について、AI(人工知能)を用いて早期発見するプログラムを京都府立医大と兵庫県立大が共同開発した。ひじのエコー画像と照合すれば自動的に異常を見つけ出すことができ、けがの早期発見や診断の正確性を高めるのが狙いだ。

 野球ひじは、靱帯(じんたい)が引っぱられて骨の一部がはがれたり、骨同士がぶつかり傷付いたりするもの。大谷翔平(ドジャース)らも経験したトミー・ジョン手術が必要な内側側副靭帯の損傷や疲労骨折なども含まれる。

 今回のプログラムは、野球ひじの中でも、ひじの外側の骨同士がぶつかって軟骨が壊死(えし)する「離断性骨軟骨炎(OCD)」と呼ばれる症状を早期発見するもの。

 京都府立医大大学院の運動器機能再生外科学(高橋謙治教授)の研究グループと、兵庫県立大先端医療工学研究所(小橋昌司所長)が2020年から共同で研究・開発してきた。

 OCDは、まだ骨格が発達していない小学4年から中学1年ごろの子どもに多い。初期は痛みなどの自覚症状がほとんどないため発見が難しく、異変に気づいたときには手術をしても手遅れ、ということも少なくない。

 高校生を含めた野球をしている少年少女らを対象にしたひじのエコー検査は、各地で広がっている。研究グループによると、全体の1〜3%が、OCDと診断される。

 検診の頻度は十分ではなく、専門医が不足しているという課題もある。画像判定には専門的なスキルも求められる。

 研究グループは今回、OCDを発症しやすい「上腕骨小頭(しょうとう)」と呼ばれるひじの外側の骨の先端部を特定して画像化した。プログラムに学習データとして読み込ませた子どもたち196人(正常104人、野球ひじ92人)分のエコー画像と照合して、OCDかどうかを自動判定する。97%の精度で症状を検出できたといい、今後は実用化に向け、企業に協力を求めていく。

 将来的にはOCDに限らず、野球ひじ全体の早期発見につながるプログラムの応用も視野に入れる。研究グループメンバーで京都府立医大大学院の高辻謙太さん(36)は「いずれは血圧を測るように、自分でひじの状態をチェックできるようになるかもしれない」と期待する。

 研究グループのリーダーである同大学院講師の木田圭重(よしかず)さん(46)もかつて野球少年だった。中高生のころ野球ひじに苦しみ、手術を受けたことがきっかけで医師を志した。「今回の開発がけがの早期発見につながり、苦しむ子どもたちが1人でもいなくなればうれしい。思いきって野球を楽しんでほしい」と話す。(山口裕起)