第106回全国高校野球選手権秋田大会(朝日新聞社、秋田県高校野球連盟主催)は24日、秋田市の秋田中央高で組み合わせ抽選会が開かれる。部員減が進む中、雄物川と仁賀保はともに1人の3年生が野球部を守ってきた。2校はこの夏、男鹿海洋、西仙北、大曲農太田、羽後との6校連合で臨む予定。自分が引退したあと、部はどうなるのか分からない。とにかく、抱いてきた野球への情熱を試合で発揮するしかない。

 初夏の放課後。濃い影はまだ短い。雄物川の外野手、松井瀬(るい)選手はノックも打撃も佐藤浩樹監督(53)と1対1だ。「さぼれませんよ」と松井選手は冗談をいった。この日の練習は1時間半ほど。それでも、中身は薄くない。

 昨夏、5人の上級生が去って1人になった。「何度もやめたいと思ったけど、1日たつと、やっぱ、やろうかなと。めちゃくちゃあきらめが悪いんです」といって続けた。「最後の夏、ちゃんと勝ちたいんです」

 1年生の春から昨秋まで、雄物川は県大会(本戦)や夏の選手権大会に他校と連合で臨み、6季続けて初戦で敗れている。うち5試合でコールド負けだった。

 この冬はバットをよく振った。計1千スイングという日も。6校連合で出場した5月の県大会。初戦敗退は断ち切れなかったが、自身は2三塁打に二塁打の3安打を放ち、「松井は振れる」と周囲に印象づけた。ベンチ入りもできなかった中学時代から振り返ると今、本気度はマックスだ。

 仁賀保の二塁手、嵯峨美海(みう)選手は女子なので、規程で練習試合にしか出られない。6校連合の公式戦は記録員でのベンチ入りになる。けれど、楽しい。

 「高校野球って、何かほかのスポーツと違う盛り上がりがあるじゃないですか」。どう違うの? うーんと首をひねって、ぱしっとひざを打った。「泥んこになりますよね。それで一生懸命さがよく分かるんです」

 3年生4人が退いた昨夏。当時の鈴木公大監督(28)にマネジャーから選手にならないかと持ちかけられた。中学時代にソフトボールの経験があった。「うまくなりたいです」と即答し、2人きりの練習が始まった。

 「1人でも野球をやっていたかった。野球部をなくしたくなかったんです」。三つ上の兄も仁賀保で野球をやっていた。たまに練習につき合ってもらった。そんなふうに卒業生が帰ってきても、誰もいないのは寂しい。

 4月、全校生徒を前にした部活紹介で、「兼部でも構いません。お願いします」と野球部の存続を訴えた。新入生3人ら5人がグラウンドを訪れてくれたが、部員は増えなかった。全校生徒117人で1年生は33人。なかなか、うまくはいかない。

 体力作りの冬を過ごして、春からは星野日和監督(30)と練習に励む。8日の試合で初めて打席に立った。捕手ファウルフライでもうれしかった。「来春は野球をやりたい人が入ってくれると思います……。きっと」

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 秋田県高野連のまとめでは、硬式野球部の部員数は2009年度の2188人(加盟53校)から減り続けており、今年度は1414人(43校)となった。西仙北も登録は3年生の3人だけになっている。(隈部康弘)