【神奈川】自殺した子どもの遺族がいじめ被害を訴えたにもかかわらず、詳しく調査されなかった――。横浜市の学校でそんな事例が相次いでいる。学校や市教委の対応のどこに問題があったのか。横浜市在住で各地の子どもの自殺で調査委員会のメンバーを務めてきた教育評論家の武田さち子さんに聞いた。

 ――横浜市立学校では2023年度までの10年間に児童・生徒の自殺が41件ありましたが、38件は学校が得られた情報を整理する「基本調査」にとどまり、現在調べ直しています。

 「横浜市に限った話ではありません。文部科学省の調査では、22年度に自殺した411人のうち、外部の専門家を加えた『詳細調査』をしたのは19件。わずか4.6%です」

 「いじめ防止対策推進法は、いじめが疑われる自殺は重大事態として調査するように求めているのに、実際は行われていません。基本調査では原因不明や生徒間のトラブルとして処理されていたものが、詳細調査でいじめが理由だとわかることもあります」

 ――なぜ、そんな状況になっているのですか。

 「文科省のチェックが甘く、法律ができて10年経っても、いまだに学校に浸透していない。法律のことは知っていても、学校で『中身を読んだことがある人は?』と聞くと、ほとんど手が挙がりません」

 ――市教委は基本調査のみで終えた理由を「遺族の意向を最優先した」と説明しています。

 「確かに遺族の意向は大事です。調査で家族の不仲といった遺族側が望まないプライバシーが明らかになることもあります。家族の自殺にともなう差別を心配する人もいます」

 「ですが、問題は学校側による説明不足や誤った説明があることです。いじめが疑われているのに『該当しません』と言ったり、『家族のプライバシーが全部公になるけど、いいですか』などと聞いたり。先ほどの文科省の調査では、遺族に詳細調査の制度や希望の有無を説明したのは59.4%にとどまっています」

 「基本調査の結果を説明されないことや、口頭でしか説明されないことも少なくありません。そもそも子どもを亡くして混乱しているなか、口頭だと頭に入らないですよね。遺族が調査結果を情報公開請求すると、黒塗りで何が書かれているかほとんどわからないものが出てくることもあります」

 ――きちんと調べる意義は。

 「10歳以上の子どもの死因の1位は、自殺です。原因がわからなければ防止することもできません。今回、市教委が改めて調べているのはしっかりやっているとも言えます」

 「ただ、こうした再調査で、きちんと遺族に確認しないこともあります。また、時間が経つほど調査は難しくなり、根掘り葉掘り聞かれたのに何もわかりませんでした、という結果になりかねない側面もあります」

 ――市教委の記者会見では「遺族に寄り添う」という言葉も使われました。

 「都合よく使われる常套句(じょうとうく)ですよね。遺族は混乱して自らを責めることも多い。考えが変わることもあります。大切なのは、遺族側がコンタクトを取りやすくして、連絡先や担当者を決めて真摯(しんし)に対応することだと思います」

 「私が理事を務める一般社団法人ここから未来(東京)では、第三者調査委員会の活用についてのガイドブックを出しています。いじめや自殺だけではなく、学校事故でも利用できます。被害者が仕組みを知れば、教育委員会や学校も勉強せざるをえない。できれば、調査委員会の半数を遺族側が推薦できるようにもしてほしいですね」(聞き手・増田勇介)