9日告示、26日投開票の静岡県知事選では、御前崎市に立地する中部電力浜岡原発の再稼働の是非も県民にとって重要な政策課題だ。だが、主な立候補予定者では共産党県委員長の森大介氏(55)が廃炉を主張する一方、元副知事の大村慎一(60)、前浜松市長の鈴木康友(66)の両氏は明確な姿勢を示しておらず、論戦は深まっていない。(斉藤智子、青山祥子)

 静岡市から南西に約50キロ、浜松市からは東に約50キロ。遠州灘に面した御前崎市に浜岡原発は立地している。

 3号機は1987年、4号機は93年、5号機は2005年に営業運転を開始した。1970年代にできた1、2号機は09年に運転を終えて廃炉作業を進めており、42年度に終わる見込みだ。

 最大震度7、マグニチュード9程度とされる南海トラフ巨大地震の想定震源域にあり、11年3月の東京電力福島第一原発事故の際、浜岡原発も将来、大規模地震に見舞われる可能性が高いと指摘された。当時の政府は4、5号機の運転停止、定期検査中の3号機の運転再開見送りを中部電に要請。廃炉作業中の1、2号機を含む全基が5月に運転を停止した。

 それから13年になる今も、1基も再稼働していない。3、4号機は現在、新規制基準に基づく適合審査を受けている最中で、5号機は審査の申請を準備している。中部電は想定される最大の津波について、高さ22メートルの防波壁を上回る25.2メートルと試算し、新たに提示している。

 一方、3〜5号機の燃料プールに貯蔵できる使用済み核燃料の空き容量は1割ほどで、新たな貯蔵スペースは限られる。中部電は乾式貯蔵施設の建設を原子力規制委員会に申請している。

 川勝平太知事は再稼働に慎重な姿勢で一貫していた。安全審査を踏まえた追加の安全対策工事が必要になることや燃料プールの空き容量の状況を挙げ、「審査に合格しても再稼働できる状況にはない」との見解を重ねて述べてきた。

 御前崎市に隣接する菊川、掛川、牧之原の各市が昨年実施した市民意識調査では、「安全が確認できれば稼働した方がよい」がそれぞれ4割を超えた。調査は福島原発事故後に始まり、条件付きながら「再稼働」が「停止」(廃炉を含む)を上回るのは3市のすべてで初めてのことだった。

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 そうした状況下で迎える知事選だが、再稼働の是非について態度を明確にしているのは、反対を明言している森氏のみだ。鈴木、大村の両氏と出席した公開討論会で、「巨大地震が起きれば、地震と津波と放射能汚染が一気に襲ってくる。一刻も早く廃炉にしなければならない」と主張した。

 立候補を表明した記者会見でも、エネルギー政策をめぐり「再生可能エネルギーへと大きく転換をしていく県政を目指したい」と語っている。

 鈴木氏は討論会でのやりとりで「原子力規制委が世界で最も厳しい基準で再稼働に向けた審査をしている」と答えたうえで、審査結果を「しっかりと検証して答えを導き出していく」と述べるにとどめた。

 大村氏も「規制委で浜岡原発についても議論が進んでくる。しっかりと知見を持ち、県民の声を吸収しながら、安全性についてきっちり検証していく」と答え、鈴木氏と大きな違いはなかった。

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■浜岡原発をめぐる主な動き

1976年3月 1号機営業運転開始

1978年11月 2号機営業運転開始

1987年8月 3号機営業運転開始

1993年9月 4号機営業運転開始

2005年1月 5号機営業運転開始

2009年1月 廃炉となる1、2号機の運転終了

2011年5月 政府の要請で全炉が運転停止

2014年2月 中部電が4号機の新規制基準適合審査を申請

2015年1月 使用済み核燃料の「乾式貯蔵施設」建設を規制委に申請

2015年2月 1、2号機燃料搬出完了

2015年6月 3号機の適合審査を申請

2015年12月 高さ22メートルの防波壁が完成