この画像は、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星探査機マーズ・エクスプレスが、火星の南極地域の一部をとらえたものです。2024年2月27日に取得され、4月24日にESAのウェブページで公開されました。

画像左側に、直線的な尾根が連なる格子状の地形が見えます。ここは「アングストゥス・ラビリントス」と呼ばれる地域です。1972年にNASA(アメリカ航空宇宙局)の探査機マリナー9号によって発見された地形で、マリナープロジェクトの科学者らは非公式に「インカ・シティ」と呼んでいました。直交する壁のような地形がインカの遺跡を彷彿とさせたからです。

インカ・シティのクローズアップ

インカ・シティがどのようにして形成されたのか、はっきりしたことはわかっていません。砂丘が長い年月の末に石になったのかもしれません。あるいは氷がに関連してできる「エスカー」という地形かもしれません。

またインカ・シティの「壁」は、直径86kmの巨大な円の一部のように見えることから、隕石衝突によってできた大きなクレーターの中にあるのではないかと科学者はみています。

インカ・シティの内部には、小さな黒い斑点があちらこちらに見られます。これらの斑点は「スパイダー」と呼ばれるもので、冬の間に積もった二酸化炭素の氷(ドライアイス)の層に、春になって太陽光が降り注いただときに形成されます。太陽光により層の下部にある二酸化炭素の氷が気化し、そのガスが氷を突き破って噴出します。そのとき一緒に吹き出した黒い塵が表面に落下し、直径45m〜1kmの暗い斑点が形成されます。

こちらはインカ・シティ周辺を斜めから見た立体画像です。マーズ・エクスプレスによるデジタル地形モデルとカラー情報から作成されました。

Image Credit: ESA/DLR/FU Berlin

(参照)ESA