レース後には、シーズン初の表彰台を飾った3人の喜びが眩しく、彼らを称えるチームのお祭り騒ぎも微笑ましい、美しいシーンが繰り広げられた。いつもとは違う顔ぶれだからか、次々に3人の元に足を運ぶライバルたちも清々しい。喜びと祝福のタッチ、ハグ……。

 それは、いつもとは違う顔ぶれだったから──だけだろうか。ドライバーたちに“カオスを脱出した安堵と達成感”を感じたファンも数多いはずだ。20人しかいない仲間のなかで、ふたりが意味不明の大クラッシュに見舞われたのだから。

 いくつもの問題が提起されるべきグランプリだった。

 第一に挙げられるのは、ピレリタイヤの安全性だ。レース後、クラッシュした2台のタイヤはミラノ本社の研究所に送られたはずだが、アゼルバイジャンGPの現場でピレリが明かした“事実”はルイス・ハミルトン(メルセデス)の左リヤタイヤにデブリによるカットがあったということ、このコースでもっとも酷使されるのは右リヤであること。

 そこから2台のパンクチャーも「おそらくデブリが原因」と“予測”しているようだが、この予測には大きな疑問が浮かぶ。ハミルトンのタイヤを例に挙げつつも、ランス・ストロール(アストンマーティン)やマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のタイヤに“外傷”を確認できていないのだから──2台とも、左リヤは粉々に飛散したわけでなく、かろうじてリムにひっかかった状態で戻ってきているというのに。

 ピレリはコンパウンドの摩耗が原因でないことも強調しているが、問題はそこではない。最大の懸念は、高速走行の“疲労”による構造の破壊だ。

 タイヤの構造は、高速のストレートでも過酷な試練を経験する。内圧を保ち、荷重がなければ真円の構造は、接地面では車重とダウンフォースによってフラットに押さえつけられ、路面から離れると再び真円の一部に戻る。こうして強い力で“揉まれる”ことによって、カーカスを構成する繊維もゴムとの接着部分も疲労する。

 今年の構造は「より頑丈で、低い内圧での使用が可能」としたピレリだが、アゼルバイジャンでは土曜のフリー走行前にリヤの指定内圧を19psiから20psiに引き上げた。それは構造の耐久性に不安があったからではないだろうか?

 最高速を記録するイタリア・モンツァで同様の問題が発生していないのは、通常よりはるかに軽いダウンフォースで走る特殊なコースだからだ。ストロールとフェルスタッペンに共通するのは、単独で走行する彼らにはスリップストリームやDRSの機会がほとんどなく、本来のダウンフォースを背負いながら長いストレートを走行し続けた点だ。そしてこのストレートに限って言えば、右リヤより左リヤに荷重がかかる。

 トラブルの原因を知るにはピレリの発表を待たなくてはならないが、詳細な検証の前に「おそらくデブリが原因」と言われると、真実が公表されるのか、不安にもなる。幸いなことにストロールもフェルスタッペンも無事であったが、重大なタイヤトラブルによる大事故だ。真後ろにほかのマシンがいなかったのは幸運にすぎない。

 モンツァと異なり、ダウンフォースも必要とするアゼルバイジャン。そこに不要に長いストレートを配置したコース設計自体にも問題があり、F1マシンの技術を理解したうえでの配慮が足りないと言わざるを得ない。

■レースコントロールは“自分たちの判断が正しかった”と考えてはならない
 混乱したレースにおいて、レースディレクターの判断も適切ではなかった。セーフティカーが出動するまでに、ストロールのケースでは40秒以上、フェルスタッペンの場合には80秒以上も時間を費やした理由は理解できない。

 マイケル・マシ(F1レースディレクター)はダブルイエローで十分に減速しなかったドライバーを問題視するが、イエロー区間以外では“レース”が続行される状況ではその減速が難しいからこそ、VSCルールが導入されたのではなかったか。

 安全を優先するなら、ストロールの事故の時点で赤旗が提示されるべきだった。マシは「コース右側にマシンが通れるだけのスペースがあった」と説明するが、カーボンファイバーの鋭い破片が飛び散っていないと、誰が確信できただろう?

 フェルスタッペンの事故のあとも、レッドブルが「赤旗中断で全員がタイヤを交換したほうがいい」と助言するまで決断しなかった。

 そして赤旗を出した理由は“セーフティカー先導でレースを終わらせたくなかったから”と言う。実質2周のスプリントレースのための赤旗だったのだ。FIAはいつから“興行”を優先してレースをコントロールするようになったのだろう?

 こんな異常なコンディションのなかで、グランプリのクオリティを保ったのはドライバーの腕と勇気だ。週末を通じて速さを発揮してきたセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)は、スタート直後の鮮やかなオーバーテイクで予選のロスを取り戻し、フェルスタッペンにとっても心強いチームメイトの役割を完璧に果たした。

 モナコ同様に見事なタイヤマネジメントを発揮したセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)は、11番手スタートからここでもオーバーカット作戦に成功。さらに、35周終了時点のリスタートでは1コーナーでシャルル・ルクレール(フェラーリ)を、ストレートでピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)をパスして2位表彰台の基盤を築いた。ゴールの後の笑顔が、何よりも雄弁に最高のレースを語っていた。

 ラスト2周、予選のようなスプリントでルクレールと激しく争ったのはガスリー。50周目のストレートでルクレールが前に出ると、スリップストリームを使って再びフェラーリの前へ。1コーナーでインに入り、2コーナーでしっかりと表彰台を確保した。

 ドライバーたちのおかげで、異例のスプリントは見ごたえのある華やかなものになった。しかしレースコントロールは“自分たちの判断が正しかった”と考えてはならない。いくつもの疑問符が残ったままだ。ドライバーの腕と強いメンタルに救われたことを忘れてはならない。