5月20〜21日に福島県二本松市のエビスサーキット西コースで開催された、FDJフォーミュラドリフトジャパン・シリーズの第2戦で“初参戦・初優勝”を達成したカッレ・ロバンペラ。そのインパクトは非常に大きかったが、彼がドライブした『レッドブルGRカローラ』も大きな注目を集めた。

 このマシンはGRヤリス、GRスープラ、GR86をFDJで走らせている名門クスコ・レーシングが制作したもの。ロバンペラのために特別に仕立てられた“左ハンドル”仕様だ。注目すべきはクスコ、トヨタ、レッドブル、そしてHKSが協力し合ったプロジェクトであるということ。クスコとHKSは本来、チューニングパーツメーカーとしてライバル関係にあるが、今回のためにタッグを組んだかたちだ。

 そのHKSが主要パーツを供給したエンジンは、ドリフトマシンの定番ともいる直列6気筒の『2JZ-GTE』。それにHKSのキャパシティアップグレードキットを組み込み、排気量はベースの3.0リットルから3.4リットルに拡大。ピストンやコンロッドもハイパワー化を支える仕様になっている。

■1000馬力にも対応する超強力タービンを採用

 注目すべきはタービンで、定番のGTシリーズの中でもかなり高出力指向の『GT75100_BB』を装着。数字の“100”は1000馬力を意味し、チューニング次第では1000馬力以上を狙えるほどの大風量のタービンだ。

 ドラッグレースにも対応可能なハイパワー指向のタービンを選択した理由について、HKSの担当者は「追走ではスタートダッシュで前走車に離されないことが非常に重要なので、ドラッグレース的な要素も求められるんです」と説明する。最初のコーナーまでに距離が離れてしまうと相手の懐に飛び込めず、マイナス評価になる。だからこそ、ゼロヨン的なパワーも非常に重要なのだ。

 エンジン自体はクスコが組んでいるが、タービンについては900馬力程度を狙うものと、どちらにすべきか悩んだ部分もあるという。

 クスコの担当者は「ロバンペラ選手が、どのような乗りかたをするのか分からない部分もあったので、余裕がある1000馬力仕様を選んでおくことにしました。後からパワーを上げることは難しいので」と説明する。

 当然、高出力タービンは、ひとつ小さなタイプに比べるとターボラグが大きくなる。また、予選日の午前中のようにウエットコンディションではそのパフォーマンスがマイナスにもなり得る。しかし、ドライでエンジンをうまく使いきることができれば、大きなアドバンテージになる。

■ターボラグが少ない走らせ方

 ターボラグを解消するためには、主にアンチラグを使うことになるが、乗りかたによってもかなり補うことが可能だ。前回の記事でも書いたが、ロバンペラは高いアクセル開度を保ったまま、左足ブレーキを多用してマシンの姿勢を変えるドライビングのため、他のドライバーよりもターボラグが出にくい。それでも、最終的にはブースト2.2で900馬力程度のセッティングがベストとなったようだ。

「高い回転数を保つ乗り方なので非常に負荷が高く、こちらとしてはドキドキします」と、クスコの担当者は笑っていた。

 トランスミッションは、1000馬力にも対応可能なサデフの6速シーケンシャル。リヤデフは、ドリフト界では定番ともいえるシッキー(SIKKY)を採用していた。このシッキーは、コースやコンディションに応じて5分程度でファイナルギヤを交換できることが最大の特長で、ファイナルも細かく広い範囲の仕様が用意されている。

 実際、ロバンペラもコンディション変化に応じてセッション間でファイナルを変えており、どのファイナルで行くかも勝負においては重要な要素だという。

■オリジナルの形を極力残したデザイン

 冷却系は、フロントにインタークーラーを、リヤにラジエーターを搭載。リヤクゥオーターウインドウ部に開口部を設け、そこからシュラウドを介してフレッシュエアをラジエーターへと導くデザインとなっている。ドリフトで横に向いた時でも、しっかりと風が入ってくるような開口部形状になっているのが特徴だ。

 ボディは、横幅こそかなり拡げられているが、他のマシンに比べるとノーマルに近い印象を受ける。それは、市販車とあまりにもかけ離れたモノにしたくないという、クスコおよびトヨタの意向によるものだ。

 リヤウイングはノーマルサイズでかなり地味。内装についても市販車のトリムがかなり残されていた。一方で、足まわりはクスコの技術がフルに込められている。ラリーのキットカー制作で培われた技術により、クルマがドライバーの意のままに動くようなサスペンション設計に。ダンパーについては、クスコのオリジナルが装着されていた。

 週末の“主役”となったロバンペラは、今季初優勝を飾ったWRC世界ラリー選手権第5戦『ラリー・ポルトガル』の終了から3日後の水曜日に来日すると、テストを通じて自分が望む動きになるようにとジオメトリーも含めて細かなリクエストを出し、ハンドリングを仕上げていった。

 その作業はWRCのプレイベントテストと何ら変わることなく、国際ラリー出場経験豊かなメカニックやエンジニアを擁するクスコ・レーシングだからこそ、ロバンペラの要求にフルに応えることができたに違いない。ロバンペラの要求に応えられるクルマ、そして体制ができていたからこそ、ロバンペラはエビスサーキットでFDJ初出場初優勝を達成することができたのだ。