第2戦から中1週間で、早くも第3戦『オーレン第79回ラリー・ポーランド』を迎えた2023年ERCヨーロッパ・ラリー選手権は、ポーランドの首都ワルシャワ北部のグラベルステージを舞台に争われ、選手権首位に立つヘイデン・パッドン(ヒョンデi20 Nラリー2)を抑え切ったチームMRFタイヤのマルティン・セスク(シュコダ・ファビアRSラリー2)が今季初優勝をマーク。昨季“全ステージ制覇”の偉業を達成した地元ラトビア戦に続き、キャリア2勝目を飾っている。

 マズリアン湖水地方の町ミコワイキを拠点とした硬く締まったフラットサーフェスのステージ群を軸に、全16ステージ、SS総距離182.06kmで争われたERC第3戦は、ERC登録クルー58名を含むフルエントリーを集め、金曜の予選ステージから夜間のスーパーSS、そして土日の本格ステージ群というおなじみのアイテナリーが設定された。

 曇りで比較的涼しいものの、ほぼドライなコンディションで実施された予選ステージでは、ミシュランタイヤを装着した前年度のポーランド覇者ミコ・マルチェク(シュコダ・ファビアRSラリー2)の最速で幕を開け、同じくミシュラン陣営のフィンランド王者ミッコ・ヘイッキラ(シュコダ・ファビアRSラリー2)を挟み、ピレリタイヤを履くBRCレーシングチームのパッドンと、MRFを履いたセスクが続き、5番手のMRF陣営マッズ・オストベルグ(シトロエンC3ラリー2)まで0.516秒差と、各タイヤ銘柄が超接近戦を繰り広げる。

 ミコワイキのメイン広場でセレモニアルスタートを終えた一行は、ホテル敷地内のサービスパークに隣接する専用アリーナで行われた複合路面のSSSに挑むと、土曜日のスタート順位の一部として使用される重要なステージを地元のマルチェクが制圧。2番手にパッドンが続いて予選ステージと同じ並びとし、明日からの本格ステージ群に向け足場を固める結果となった。

 しかし明けた土曜に主役を演じたのは、その金曜SSSの左コーナーでワイドになり、トップから4.3秒差の総合22番手と出遅れていたセスクで、この日のオープニングとなる18.58kmのステージでベストタイムを記録すると、早くもパッドンの背後0.2秒に迫る総合2番手へと浮上。SS3、SS4こそパッドンが最速タイムで応じたものの、昼のミッドデイ・サービス時点では1.4秒差と肉薄する。

 午後のループを経て、最後のSSSでは慎重なアプローチを選択したセスクが、パッドンに1.3秒を取り戻すことを許したが、それでも後続に対し8.2秒のマージンを築いたセスクが総合首位に躍り出た。

「悪くはなかった。まだ取り組むべき点はいくつかあるが、スピードに関してはある意味、まったく問題なかったね」と満足の初日を振り返ったセスク。「MRFとチームは素晴らしい仕事をしてくれている。だから僕らはトップにいるんだ」

 一方、午後のステージ群で「もう少し速く走ることはできたかもしれない」と語ったパッドンは、それと同時に選手権を見据える大切さも繰り返す。

「チャンピオンシップを念頭に置いてドライブするときは、できる限りリスクを排除する必要がある」と続けた今季、欧州選手権初制覇を狙う“キウイ”ことパッドン。

「今はちょっとした争いが起きているが、おそらく明日の午後までそれについて考えることはない。そこまで僕らは独自のラリーを続け、長期戦を考え続ける必要があるんだ」

■首位を争うパッドンにタイヤトラブルが発生

 一方、金曜最速の男となっていた地元出身のマルチェクは、SS2でのコースオフとSS4で発生したポップオフバルブの問題でタイムを落とし、首位と41.4秒差の総合3位となった。

「我々も優勝争いに加わりたいが、もっと頑張れば何かが起こるかもしれない」と昨季のポーランド勝者。

「このレベルではこれが僕の限界ペースだけど、明日はもう1回挑戦するよ」

 日曜のオープニングSSこそ「慎重なアプローチ」を宣言していたパッドンが、世界選手権の経験者らしい最速タイムでその差を7.4秒に縮め、首位のライバルに揺さぶりを掛けるも、このハイペースが祟ったか右フロントタイヤを損傷したままステージを完走する代償を払わされ、優勝争いの結果に大きな影響を与えることとなった。

「僕たちはこれまでと同じようにプッシュし続けたが、またパンクする危険があり、今度はそこでリタイアする可能性があった」と、午後のループではスペアを搭載していなかったことを明かしたパッドン。

「チャンピオンシップと獲得ポイントについて考えたとき、賢明なゲームをプレイすることが重要であり、それが僕らが下さなければならなかった決断だった。今日は午前中にも午後にもタイヤにダメージを受け、計画どおりにはいかなかったんだ」と言いつつ、選手権リードをさらに拡大する連続2位表彰台を確保したパッドン。

「1日のほとんどをスペアタイヤなしで過ごしたような気がしたし、非常にストレスの多い日だったと言わざるを得ない。午後はスペアを2本積むこともできたが、僕らはパワーステージポイントを狙いたかったんだ……」

 そして日曜を通じて39.6秒までギャップを拡大したセスクが、改めてMRFにERCの“ウイニング・タイヤ・アワード”をもたらした。

「本当に特別な気分だ。クルマ、チーム、タイヤ、そして僕ら全員が戦う準備ができていたことを示せたんだからね」と、ERC通算2勝目を挙げた喜びを語ったラトビア出身の23歳。

「良いクルマ、良いチーム、良いタイヤがあれば結果はついてくる。問題が発生する可能性があるわだちのステージでもノートラブルだったし、これほど高いレベルでパフォーマンスができるのはとてもうれしいことさ。ビデオで見ると簡単そうに見えるけど、実際にはかなりの集中力が必要なんだ」

 これで選手権首位のパッドンに37ポイント差のランキング2位に浮上したセスク、そしてミシュランを装着した地元出身マルチェクの3台がトップ3を占め、各タイヤ銘柄がポディウムを分ける結果となったERCだが、このポーランドから“高速グラベルシリーズ3連戦”が始まり、続く第4戦は6月16〜18日開催の『ラリー・リエパヤ』へと続いていく。