5月27日、静岡県の富士スピードウェイで開催されているENEOSスーパー耐久シリーズ第2戦NAPAC富士SUPER TEC 24時間レースの決勝レースを前に、トヨタ自動車佐藤恒治社長、マツダの次期社長に決定している毛籠勝弘取締役専務執行役員、スーパー耐久機構の桑山晴美事務局長、そしてル・マン24時間を運営するACOフランス西部自動車クラブのピエール・フィヨン会長が出席し記者会見が行われた。このなかで、マツダの毛籠専務執行役員が、ル・マンへの思いを語った。

 世界中のファンが知るとおり、マツダにとってル・マンは特別な場所だ。1991年にフォルカー・バイドラー/ジョニー・ハーバート/ベルトラン・ガショーが駆ったマツダ787Bがジャガーとの戦いを制し、日本車として初めてル・マン24時間での総合優勝を飾った。またロータリーエンジン車としても初めてのル・マン制覇を成し遂げている。

 2023年は、そんなル・マン24時間の100周年という記念の年。マツダもACOフランス西部自動車クラブから招待され、マツダ787Bをデモランさせることが決まった。毛籠専務執行役員は、来日したACOフィヨン会長の前で、「世界中の自動車メーカーチームが切磋琢磨して頂点を目指す、世界最高峰の耐久レースがこれだけ永きに渡って続けられ、そして自動車文化への多大な貢献をされたことに敬意を表したいと思います」とル・マンに対しての思いを語った。

「マツダにとってル・マンは非常に特別な場所で、永きに渡って自動車技術を鍛えてまいりました。当社の三次(みよし)自動車試験場には、ロータリーエンジンの実用化に心血を注ぎました山本健一元会長の書である『飽くなき挑戦』の石碑が建てられております。この石碑に刻まれた日付は1991年6月23日。ロータリーエンジンを搭載したマツダ787Bが日本車として初めての総合優勝を遂げた日付けでございます」

「このル・マンでのチャレンジを培った『飽くなき挑戦』は、マツダ全社の共通の価値観となっておりまして、今日のマツダを支えています。そういう観点でも、ル・マンに大きな感謝をしている次第です」

■「いつかサルト・サーキットで“将来のクルマ”で走る日を夢見て」
 そんな毛籠専務執行役員の挨拶を受けてコメントしたフィヨン会長からは、2026年からル・マンの最高峰となるハイパーカークラスで、燃料電池車や水素エンジン車など、水素活用車両の参戦を認めると公式な発言がされた。

 マツダは近年までしばらくメーカーとしてのモータースポーツ活動を行っていなかったが、2021年から『MAZDA SPIRIT RACING』という新たなブランドを立ち上げ、バイオディーゼル燃料を使用した車両でスーパー耐久シリーズのST-Qクラスに参戦を開始した。さらに、日本全国のサーキットにもMAZDA SPIRIT RACINGのロゴが躍るなど、日本で少しずつ存在感を増している。

 また一方で、マツダは水素への取り組みも続けてきたメーカーだ。ル・マンを制した同じ年の1991年には水素ロータリーエンジン第1号車となる『HR-X』を開発。水素ロータリーエンジン、燃料電池車などを過去に開発した歴史がある。

 水素、ロータリー、ル・マンという関連するワードが出るなか、これについて問われた毛籠専務執行役員は「まず、ル・マンが常に技術の多様性、寛容性、先進性を採り入れてこられたことに対してリスペクトがありますし、今後の100年に向けたチャプターを開けてこられたのは、ひとりのモータースポーツファンとして嬉しく思います。特に、内燃機関が続くということは嬉しいニュースだと思います」と答えた。

「ロータリーエンジンは“雑食性”で、水素を燃やしたこともあります。でもそれは15年も前の話ですので、今すぐどうこうではありませんが、その可能性の扉を開けていただいたことを前向きに受け止め、今後のことを考えていきたいと思います。今日はこれくらいにしておいてください(笑)」

 さらに毛籠専務執行役員は、別の質問に答え「ル・マンは技術の多様性に寛容であることから、ロータリーエンジンも受け容れていただき、それがあったからこそ、先輩方が20年間一生懸命チャレンジをしてきました。そこでロータリーエンジンがマツダの代名詞になっていったという歴史があります」とル・マンへの思いを語った。

「我々にとっては本当に特別な場所です。我々はあきらめの悪い会社ですので、今後もいろいろなかたちで関わっていきたいですし、いつかル・マンのサルト・サーキットで、“昔のクルマ”ではなく、“将来のクルマ”で走る日を夢見て、足元からしっかりとやっていきたいです。まずはこのスーパー耐久をしっかりと盛り上げていくことにフォーカスして、前に繋げていきたいと思っています」

 MAZDA SPIRIT RACINGのスーパー耐久活動はスタートから2年が過ぎ、メーカーも多くのことを得ながらカーボンニュートラルに向けレースを進めている。毛籠専務執行役員の思いがそのまま直結するわけではないかもしれないし、ロータリーエンジンの可能性が繋がる話ではないかもしれないが、スーパー耐久の活動の先にル・マンという目標があるのか、今後のMAZDA SPIRIT RACINGの活動を見守っていきたい。