マリーナベイ市街地サーキットを舞台に行われた2023年第16戦シンガポールGPは、カルロス・サインツ(フェラーリ)がポール・トゥ・ウインでキャリア2勝目を飾り、レッドブルのチーム連勝記録、マックス・フェルスタッペンのF1個人連勝記録更新を止めました。今回はレッドブル失速、フェラーリが勝率を引き上げた戦略について、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シンガポールGP最大の話題はやはりレッドブルの失速です。フェルスタッペンが予選11番手から決勝5位、セルジオ・ペレスが予選13番手から決勝8位と、今年のレッドブルらしくない結果でしたね。マリーナベイ市街地サーキットでのレッドブル勢は、コーナリング時に明らかにステアリングが切れていませんでした。その理由はリヤエンドがナーバスで、特に低速コーナーへのターンイン開始時点からリヤのスタビリティ(安定性)がないからでしょう。
コーナーに入りエイペックス(クリッピングポイント)を迎えるも、そこで速度を落とし。さらには速度を落としすぎたゆえにクルマの向きが変わりきっていない状態からアクセルを踏んでしまいコーナー出口でオーバーステアが出る、というのを繰り返しているように見えました。ちなみに、マリーナベイ市街地サーキットは高速コーナーが最終ターンしかありませんが、そこでのレッドブル勢の動きは悪くはありませんでした。
一方でフェラーリはレッドブルとは真逆と言いますか、低速コーナーでフロントがグイグイと入るクルマでした。スピードを維持しつつエイペックスを迎え、クルマの向きも綺麗に変えているので立ち上がりのアクセルオンのタイミングも非常に早く、かつ安定していました。同じく決勝で好走を見せていたメルセデス勢もそれに近い挙動でしたね。ただ、フロントの入りの良さという点ではフェラーリが秀でていたように見えました。
レッドブル失速の根本的な理由はわかりません。シンガポールGPからフレキシブルウイングへの取り締まりが強化されましたが、その影響はないとチーム代表のクリスチャン・ホーナーはコメントしています。でも、影響がまったくないのかはチームのみが知る領域であり、見えない部分です。直接的な影響はなくてもフレキシブルウイングへの取締強化が遠因であるとすれば、ダウンフォースの使い方や最適化の面で方向性が変わり、それに伴って車高を変える必要があったというふうに、要因はひとつではなく、複数の事象が絡んでいるかもしれませんね。
レッドブルの今年のクルマはアンチダイブ(ブレーキ時の荷重移動によるサスペンションの伸縮を抑え車体が前傾しないようにすること)やアンチスコート(加速トルク反動で車体が路面に押し下げられ車体が後傾するのを抑えること)を強めに効かせたサスペンションを採用し、できるだけ車高を下げてダウンフォース量を安定させています。ところが、シンガポールGPの舞台はバンピーな市街地コースですから車高を高めにしなければならず、普段得られていたダウンフォース量を稼ぐことができなかった、ということも考えられます。
イタリアGPまでを見ても分かるとおり、レッドブルには優秀なスタッフが揃っています。そんなレッドブルでも今回の失速は防ぐことができなかった。それだけ今のF1は複雑です。ほんの少しバランスが崩れてしまうと一気に全部が崩れてしまう。それを対策するべく、チームは事前のシミュレーションを経てサーキットにマシンを持ち込んでいますが、まずこの持ち込みセットの段階で大きく外し、さらに予選に向けて修正した部分が後手に回ったのではないでしょうか。決勝に関してはそこまで悪いようには見えませんでしたので、決勝前には予選までの失速の原因は特定できていたのかもしれません。
ともかく、持ち込みセットアップを外すと、レースウイークで取り戻すことが非常に難しいのが今のF1です。フリー走行後、予選に向けてクルマを変えた部分で外してしまったのはレッドブルらしくないミスでしたね。もともとのクルマの特性がマリーナベイ市街地サーキットに合っていなかったことに加え、大幅なセットアップ修正しなければならないという焦りもあったのかもしれません。
焦りという点はドライバーも同様です。フェルスタッペンは予選で3件の審議対象(いずれもペナルティにはならず)となるなど、マシンの現状やトラフィックの多いサーキット特性にイライラしていたと思います。チームも人間も余裕がなくなった際にネガティブなことが出てきます。フェルスタッペンは10連勝中だっただけに普段であれば焦らない程度のことに、特にマシン状態が厳しかった予選で過剰に反応してしまったのかもしれません。
■1台に絞ることで勝つ可能性を引き上げたフェラーリ
さて、レッドブルの連勝を止めたフェラーリは、決勝序盤に首位サインツを追うシャルル・ルクレールに対し、「サインツから3〜5秒ギャップを開けてくれ」という無線を飛ばしました。これについてはおそらく、スタート前にチーム内で何かしらの決め事があったのではないかと推察します。
たとえば、ターン1でホールショットと奪ったり、オープニングラップをトップで終えた方に優先権があるというようなものですね。フェラーリには今回のレースをなんとしてでも勝たなければならないという意思が見えていました。それゆえにレース前になんらかの約束事をして、前に出たドライバーを優先し、後ろのドライバーは先行するチームメイトに何が起きても勝てる状況となるよう、マージンを作れるようなレース展開をさせていた。
これがフェラーリのチームワークだと思います。これまでトップチームがやってきたように、ひとりのドライバーが逃げ、もうひとりがそれを援護し絶対に勝たせる。2台のうちどちらかに絞ることで勝つ可能性を引き上げるというやり方を、今年に入りフェラーリは初めて実行したのではと思います。また、ルクレールもあの無線に対し極端なオーバーアクションもなく受け入れていましたし、自分の役割を理解してやるべきことをやっていたように見えました。
サインツとフェラーリはこの勝利がさらなる好調、いい波に乗るきっかけとなるかもしれません。ただ、鈴鹿サーキットで開催される次戦日本GPではレッドブルが速いでしょう。それでも、フェラーリには一発のスピードがありますし、今までとは違う戦い方をすれば日本GPでも面白い存在になりそうです。
ちなみに、サインツに関しては前戦イタリアGPでの走りが今回の勝利の伏線になっていたと感じますね。モンツァでの対ルクレール戦では戦い方にも精神的な強さを見せていました。マシン自体はレッドブルのような圧倒的なスピードこそありませんでしたが、チャンスが来た際に絶対に勝つのだという強烈な意志を持っていたのでしょう。あのモンツァでの戦いがあったからこそ、シンガポールでのポール・トゥ・ウインに繋がったのだと感じます。
さて、次回はいよいよ日本GPです。レッドブルの連勝が止まり、表彰台にフェラーリ、マクラーレン、メルセデスが登壇したシンガポールGPの翌戦なだけに、鈴鹿はどうなるのかという点は皆さんも大いに楽しみにしていることだと思います。レッドブル以外のチームもアップデートを重ね、車両の差は縮まっており、いつも以上の接戦が見られるでしょう。
ですが、レッドブルの強さという点は変わらないと思います。そのレッドブルにどこまでフェラーリが近づけるかが注目ですね。そして個人的にはシンガポールGPで不運なアクシデントでリタイアとなった(角田)裕毅、9位でF1初入賞を果たしたリアム・ローソンの走りを、じっくりと見ていきたいと思います。
【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。2023年はドライバーとしてスーパー耐久シリーズST-TCRクラスへ参戦。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
【中野信治のF1分析/第16戦】大失速レッドブル、低速区間で別れた明暗。フェラーリのチームワークとサインツの強靱な意志

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