モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『トヨタ・ランドクルーザー“250”(ニーゴーマル)』のプロトタイプモデルに試乗する。舞台は『さなげアドベンチャーフィールド』(愛知県豊田市)の本格的なオフロードコース。世界各国の過酷な環境で活躍するランクルファミリーの新風、“250”シリーズの実力を深掘りする。

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 トヨタ・ランドクルーザーは悪路走破性の高さが身上だ。その高い悪路走破性をベースに「扱いやすさ」を付与し、多くの人々の生活を支える役割と使命を担うべく誕生したのが、2024年4月18日に発売された“250”(ニーゴーマル)シリーズである。

 “250”の開発にあたっては、ランドクルーザー・プラド(150シリーズ)が高級・豪華な方向にシフトしてしまった「反省」があった。

 ランクルは本来、人々の生活や地域社会を支えるクルマであるべきなのだが、プラドは色気を出してしまい、高級・豪華な路線に走ってしまった。そっちの方向にはすでに“200”シリーズ(当時)がいるのでキャラが被ってしまう。

「ランクル本来の姿に戻す必要があるのではないか」と原点回帰を提示したのは、豊田章男会長(当時は社長)だった。

 ランドクルーザー群の中核を担うモデルとして、質実剛健であることを意識して開発したのが“250”シリーズである。2021年に登場した“300”シリーズは高級・豪華なキャラクターを維持。2023年に再々販された“70”シリーズは、過酷な環境での使用に軸足を置いた本格オフローダーの位置付けである。

 オフロードコースで“300”、“250”、“70”を試乗する機会を得たが、実物を見て、そして試乗した印象を言えば、ランクル群のど真ん中に引き戻したとはいえ、“250”はやはり、どちらかといえば“300”寄りのキャラクターを備えていると言える。

 エクステリアのデザインは、都会よりもオフロードのほうが似合いそうだが、走りは快適で“300”に近い。

 それは当然で、“250”は“300”とGA-Fプラットフォームを共有する。ボディ・オン・フレームの構造で、ラダーフレームにボディを締結した構造だ。

 じゃあ、“250”はボディを載せ替えただけかというとそんなことはなく、“300”では車軸の前にあるフロントのスタビライザー(アンチロールバー)を車軸の後ろに移すなど、大がかりな手が加わっている。

 フロントのオーバーハングを短くするためだ。悪路走行時の機能を高めるのが狙いである。オーバーハングを短くすると衝突安全基準をクリアするのが難しくなる。

 その解決策のひとつが、スタビライザーのレイアウト変更というわけだ。短いオーバーハングと衝突安全性を両立させるために3ヵ月ほど開発を止めたそうで、そこまでして実現したところにこだわりの強さが表れている。

「理由はふたつあります」と、ランクル群の開発責任者を務める森津圭太氏は語る。

「クルマの理想形は屋根が小さく見えてタイヤが四隅に配置されていること。それが一番カッコイイですし、性能的にも一番いい。まずはそれを実現したかった」

「もうひとつは、“300”との差別化です。“250”は『生活に必要なクルマ』なので、扱いやすさを追求したい。そうであれば角をしっかりそぎ落として取り回しを良くしたいと考えました」

 フロントだけでなく、リヤも同様の考え方だ。“250”は「プロが使う無駄のない道具に共通する洗練された機能美」をキーワードに外装・内装をデザインしたというが、“250”を目にすると、まさにそんな表現がぴったりくる印象を受ける。

 ハードウェア面ではパワーステアリングのアシスト機構が“300”と異なる。“300”が油圧なのに対し“250”は電動だ。

 “300”の開発に着手した時点では、世界各地の使われ方から信頼性・耐久性を考慮して油圧を選択。その後、タンドラ(国内未導入)などでの採用によって市場で信頼性・耐久性の確認ができたことなどから“250”への適用に至ったそう。

 エンジンは“300”が3.3リッターV6ディーゼルと3.5リッターV6ガソリンツインターボの設定(どちらも10速ATの組み合わせ)なのに対し、“250”は2.8リッター直4ディーゼルと2.7リッター直4自然吸気ガソリンの設定となる。ディーゼルは8速AT、ガソリンは6速ATとの組み合わせだ。

 悪路走行時に影響を与える機能としては、スタビライザーの調節機構が挙げられる。“300”のGR SPORT(今回の試乗車)は、路面状況に応じて前後のスタビライザーの効きを個別に細かく調節するE-KDSSを装備。

 “250”はフロントのスタビライザーをスイッチ操作でオンオフできるSDMを装備している。“250”のダンパーは固定なのに対し、“300”は減衰力を可変制御するAVSを搭載している。

 制御てんこ盛り、かつパワフルなエンジンを搭載するのが“300”。“生活実用”を旨とする“250”はハイテク装備をそぎ落とした格好だ。

 では、“300”に対して“250”は悪路走破性が劣るかというと、そんなことはない。

 大きなくぼみが交互に並ぶモーグル路であれ、大きな岩が並ぶ岩石路であれ、不安を抱くことなく走り抜けることができる。“250”の悪路走破性に不足はない。“300”との違いは快適性だ。

 路面状況に応じて駆動力や制動力、さらには減衰力やスタビライザーの効果を最適に制御する(機能を備えている)“300”は、眼前に広がるのが過酷な路面であることが信じられないくらい何ごともなく、クリアする。拍子抜けするほどだ。

 大きな凹凸を乗り越えているはずなのに、ちょっとした段差を乗り越えたほどにしかキャビンは揺れない。“300”の室内が平和なことといったら、感激を通り越して唖然とするほどである。

 “300”と比較すれば“250”は、きちんと悪路を走っている実感が湧く。しかし不安は一切感じず、頼もしさを感じるのみである。

 オフロードでは、写真のような過酷な区間を4Lで走った。フロント40:リヤ60の駆動力配分比を基本とするトルセン式センターデフをロックした状態、かつ副変速機は低速側である。

 アクセルペダルのコントロールで駆動力を探りつつ難所をクリアするもいいし、クロールコントロールの機能をオンにして、駆動/制動と車速の調節はクルマに任せ、ステアリング操作に集中するのもいい。

 急な下り勾配も同様。DAC(ダウンヒルアシストコントロール)を使えば、滑りやすい路面での速度管理の不安から解放され、ステアリング操作に集中できる。

 “250”がいかに頼もしく快適な乗り物なのかは、“70”で同じコースを走ることによって強く実感した。路面条件は同じなのに、“250”や“300”にとってはレジャーでも、“70”にとってはアドベンチャーである。

 過酷な環境で生活や仕事の道具として使われることを想定した“70”は、信頼性や耐久性、部品交換の際の整備性を重視した作りになっている。

 “250”/“300”のフロントサスペンションが独立(ダブルウイッシュボーン式)なのに対し、“70”がリジッド(車軸式コイル)なのはそのためだし、ステアリング機構がラック&ピニオンではなくリサーキュレーティングボールなのもそのためだ(さすがに油圧アシストは付いている)。

 “70”だと同じ角を曲がるにも“250”/“300”に比べて(イメージ的に)3倍くらい余計にステアリングを回す必要があるし、岩石路ではシビアなキックバックにさらされる。

 “250”/“300”では(気分的に)鼻歌まじりでクリアできた悪路も、“70”では汗がにじみ出るほどだ(冷や汗も混じっている)。駆動/制動を助ける制御は最小限なので、メカに頼って乗り切るしかない(フロント&リヤデフロック時の頼もしさを実感した)。

 “300”は悪路を悪路と感じさせない制御の凄みを感じさせる。“70”は対照的で、徹底的にプリミティブ。“250”はその中間だが、だいぶ“300”寄りの印象。

 “300”はラグジュアリーホテルの快適さ。“70”はテント泊。“250”は設備が充分に備わったロッジのイメージか。キャラクターははっきりわかれている。