ホンダは前戦カタルーニャGPに続き、イタリアGPで新しい空力デバイスを使用している。フランスGP後に行ったムジェロでのプライベートテストで試されたもので、カタルーニャGPではアップデートをせずに走った中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)のマシンにも、新しい空力デバイスが投入された。

 中上については数の関係から、金曜日は1台分だけ新しいもので走り、土曜日からは2台そろって新しい空力デバイスを装着したマシンとなった。ただ、土曜日の午前中についてはテールカウル部分だけ、以前のものを使用したマシンを試している。つまり、フロントやサイドカウルはアップデートされたもの、テールカウル部分は今季のスタートから使用していたものという組み合わせである。

 この組み合わせによってグリップが向上するのではないか、と期待されていたというが、結果的にはほとんど違いはなかった。このため、スプリントレースでは他のホンダライダーと同様の、新空力デバイスのパッケージで走っている。

「『これだ!』という確信が、まだまだHRCもない状況なんです。(組み合わせを変えても)結局はそんなに違いもないし……。どちらを使っても(スプリントレースの)結果は変わらなかったと思うんですけど。まだ、定まっていない感じです」

 スプリントレースではジョアン・ミル(レプソル・ホンダ・チーム)が5周目にピットに入り、リタイアをしている。レース後の囲み取材でのミルの話によると、「何が原因かはわからないんだけど、振動があったんだ。データなどを確認しているけど、今のところその理由はわかっていない」ということだ。

 イタリアGPにおけるミルのマシンについて、ミル自身は木曜日の時点で「モンメロ(カタルーニャGP)と同様に違うパッケージを使用する。僕たちはこの新しいエンジン・コンフィグレーションを開発しようとしている。これをこのまま使い続けていくのかどうかを確認しなくちゃいけない。まだわからないけどね」と語っている。というわけで、カタルーニャGPで使用した新しいエンジン・コンフィグレーションと、新しい空力デバイスで臨んでいるとみられる。

 中上にも似たような症状がスプリントレースであったのかと尋ねたが、彼にはそうした症状はなく、「レプソルはよくそういうコメントを聞きますね。何が原因かわからないですけど」と答えていた。原因について新しいアイテムに目を向けるべきかも不明である。

 では、新しいエアロのパッケージについて、ライダーはどう感じているのだろうか。前向きなコメントは、最高速についてだ。1.141kmあるムジェロ・サーキットのメインストレートで、中上はスリップストリームを使ってドゥカティのファビオ・ディ・ジャンアントニオ(プルタミナ・エンデューロVR46・MotoGPレーシングチーム)を抜いたという。

 ヨハン・ザルコ(カストロール・ホンダLCR)もスプリントレースでの新空力デバイスの印象について「6速でオーバーテイクできそうなスリップストリームがあったし、誰も僕をオーバーテイクしなかった。純粋なパワーとエアロダイナミクスはいいと思うんだ」と述べている。

 ただし、中上やミルが語っているところによれば、旋回性、グリップの改善には至っていないという。中上は、積年の課題であるリヤのグリップ不足を改善するには、時間がかかるだろうと考えている。

「リヤのグリップが欠けているので、コーナリングでバイクが旋回しないんです。そしてバイクをバンクさせると、すぐにフロントのフィーリングがどこかにいってしまいます。というわけでラインをフォローできず、ワイドになって、旋回ができないんです。けれど、スロットルを開けなくちゃいけないですよね。すると横に流れ、スピンしてしまいます。前に進まないんです。バイクを起こそうにも、まだ旋回中だからできません」

 実際にホンダのマシンは、コーナーの進入で一瞬何かを探るように戸惑うような挙動を見せることがある。そしてまた、立ち上がりでは、特にドゥカティと比べると、加速のスムーズさ、加速度が明らかに違っている。

「多くのレースで、同じ、こうしたコメントをしています。新しいエアロでトップスピードが上がっても、旋回とリヤのグリップについては何も変わっていないのです。トップスピードはいいのですが、それはストレートだけです。新しいスペックのポテンシャルについては理解するのに長い時間がかかります。多くのことにトライしなければなりません」

 今後について、中上によれば、「新しいエンジンをつくるとは聞いている」ということだ。コンセッションのランクDの適用を受けるホンダは、シーズン中のエンジンのアップデートが認められているからだ。

「今後はサマーブレイク明けか、数カ月先に、新しいものがくると思います。今はそれに向けて、本当にこの方向性、新しいエンジンのほうがいいのか、などの確認をしているところではないかと思います」

 囲み取材などで、ホンダのライダーたちはしばしば、ホンダ同士の順位争いを指して「ホンダカップ」と言う。他のメーカーのライダーたちとのバトルができていない状況を表現している、とも言える。シーズン前半戦まで大きな改善がない見込みならば、ホンダのライダーたちが「ホンダカップ」を脱するのは、少なくともサマーブレイク後になりそうだ。