新年度が始まって3カ月。日々、部活動に励んでいる中学生も多いのでは。読者の疑問に答える静岡新聞のNEXT特捜隊に、この春、子どもが公立中に入学したという保護者から「運動部に入ろうとしたら、週末に部員の送迎を求められ、担える環境にないので困ってしまった」との投稿が寄せられた。この問題をどう考えるか、読者や有識者に意見を聞いた。

 投稿してくれたのは、静岡市内に住む40代の女性。年度当初に学校から配布された部活動の一覧には、希望する部の保護者会の仕事として「月1回程度、大会や練習試合で配車(自家用車での部員送迎)当番あり」とあった。女性は運転免許はあるもののペーパードライバーで夫も週末は仕事。「入部は無理かも」と悩んだ。
 その後、「配車ができなければ他の仕事を担えばよい」と聞き、子どもは希望の部に入部した。だが女性は「毎回送迎してもらうのは心苦しく、事故などの際の責任の所在も心配。親が送る以外にないのか」と感じる。「配車を理由に入部を諦める子もいるのでは」と疑問も抱く。

■立候補で配車
 中学校の部活動に伴う親による送迎の実態について、読者アンケートを実施した。147人から回答があり、うち送迎経験がある人は80人。送迎経験はないが、送迎が求められる部活に子どもが所属した経験のある人も12人いた。
 この92人に実際の状況を尋ねると、送迎担当の決め方は「保護者同士で行ける人を募り、配車担当者が(部員を)振り分ける」(静岡市清水区、30代、会社員女性)といった、立候補制を採る例が多い。全体や学年ごとに当番を回す輪番制の部や、保護者が個々に自分の子を送迎する個別送迎の部もあった。
 頻度は「毎週」から「月1回程度」「2カ月に1回程度」「年に3、4回」とまちまち。距離も居住する市町内や近隣市町を中心に、「遠いと40〜50キロ」(静岡市葵区、58歳、会社員男性)「片道2時間くらいの時もあった」(浜松市中央区、48歳、会社員女性)と遠方の移動もあった。
 「送迎車の台数に制限があり、大きな車を所持している方がやることが多い」(藤枝市、38歳、パート女性)「配車(を決める)係を担ったが、協力的でない家が多かった」(焼津市、51歳、ドライバー女性)などと一部に負担が偏りがちな状況もうかがえた。
 「週末仕事を休めず、父(子どもの祖父)に頼んだ」(掛川市、57歳、理容業女性)「送迎のために仕事を休んだ」(沼津市、48歳、歯科医師女性)などと、苦労をつづる人も。島田市の自営業女性(50)は「先生に練習試合を近場でしてほしいと頼んだがかなわず、転部した」という。

■事故時 責任は
 送迎を担う心情としては「子どもを応援したい」「交流が深まる」と前向きな声がある一方、自分の子以外の送迎については「事故を考えると乗せるのは気が引ける」(磐田市、50代、会社員女性)との本音も目立つ。浜松市中央区の男性(47)は「他の保護者の車に同乗させるのに抵抗があると言ったら、批判的な反応をされた」という。
 送迎時の事故やトラブルについてはほとんどの人が「ない」と答えた。一部で「事故を起こして車を全損したが、部の補償などはなかった」(県東部、50歳、パート女性)「事故があり急きょ送迎担当が代わったことがある。送迎のために慣れない車を運転していたと聞いた」(県中部、50代、会社員男性)との体験も寄せられた。
 送迎にかかる費用や損害保険などの負担について、取り決めが「ある」とした人は、92人中22人にとどまった。運転者に部費から通行料やガソリン代として実費や定額を支給する、運転者以外で通行料を割り勘にする―などのケースがあった。「保護者が学校に要望し、送迎中の事故に関して運転者の責任を問わない等の念書を作った」(静岡市駿河区、50歳、会社員女性)という例もあった。

■他の手段に限界
 回答者の中では、保護者による送迎は「やむを得ない」と考える人が多数派。送迎経験のない人も含め、親の部活動送迎の是非を問うと、「他に方法がなければやむを得ない」が62人、次いで「できる限り避けるべき」が35人、「親が送迎すべきではない」が27人だった。一方「当然行うべき」と考える人も10人いた。
 「やむを得ない」とした理由は「バスなどを借りるのも負担増になる」(長泉町、49歳、会社員男性)「公共交通機関で行けないところもある」(静岡市葵区、49歳、公務員男性)など。「できる限り避けるべき」「送迎すべきでない」理由としては、事故に対する不安や「自転車や公共交通機関での移動も社会勉強」(静岡市葵区、48歳、パート女性)などの声があった。
 親の送迎に替わる移動手段として借り上げバスや公共交通機関、タクシー、自転車の活用が挙がる一方、「駅まで遠く路線バスも少ない地域で、他に方法がない」(掛川市、44歳、パート女性)という人もいた。
 部活動が学校から切り離される地域移行後の活動の在り方については、「試合や大会ありきでなく、地域内で活動を充実させる方法を模索してほしい」(浜松市中央区、39歳、大学教員)との要望も寄せられた。

【アンケート概要】アンケートは7〜10日にNEXT特捜隊の公式LINEを通じて実施し、保護者を中心に147人(女性77人、男性60人、その他・回答しない10人)の回答を得た。

■教委のガイドラインに規定なし
 静岡市立中学校における部活動について、市教委は2017年度に市立中学校部活動ガイドラインを策定し、活動の指針と位置づけている。ここには保護者の送迎に関する規定は盛り込まれていない。
 ただ、同ガイドラインのQ&Aは、練習試合の会場や移動手段に言及している。会場は「むやみに、あるいは頻繁に遠距離にならないように」、移動手段は「徒歩、自転車で移動できない場合は、原則として公共交通機関や貸し切りバス」と明記。保護者の配車等については「その負担等を十分考慮し、安易に協力を求めない」よう促している。
 県教委が中学、高校の部活動について定めたガイドラインにも保護者の送迎に関わる規定はない。県は県立高校の部活動については、19年度から各校に年間20万円の予算を配分し、移動にかかるバスの借り上げや運転手の手配などの費用として活用できるよう支援している。

■総意尊重し 対応柔軟に 村田真一・静岡大准教授に聞く
 中学校の部活動を学校から地域主体に転換する地域移行も踏まえ、部活動における保護者の送迎をどう考えるか。静岡大の村田真一准教授(スポーツ経営学)に聞いた。
 −部活動の送迎が負担との保護者の声にどう応えるべきか。
 「二つのことを整理して考える必要がある。一つは送迎のやり方。まずは事故発生時の対応も含め、関係者が事前に十分話し合ってやり方を決めることが大切になる。もう一つは、送迎がなくては成り立たない活動のあり方を再考することだ」
 −活動のあり方をどう考えたらいいか。
 「競技によってもそれぞれ事情や考え方が違い、交通の便などの地域差も大きい。競技ごと、あるいは地域ごとに過剰な負担にならない活動や送迎方法を考えるべきだ。競技別や地域別のガイドラインなどが検討されてもいい」
 −やり方を話し合うのも簡単ではなさそうだ。
 「難しいが大事なことだ。送迎を含めた活動のあり方は、当事者の総意で決めるのが本来。決まりありきで従わざるを得ない状況は好ましくない。生徒も保護者も毎年変わるのだから、事情に合わせてやり方を変えていく方がよい」
 ―保護者にはどこまで関われるか不安もある。
 「部活動の地域移行においてあらためて重視すべきことは、生徒を主体とした無理のない民主的な運営。課題は多いが、言われるがままにやる発想から離れ、自律的に向き合うことでスポーツはより自由に楽しくなる。保護者の負担が重いなら、当事者の話し合いで望ましい形に変えていけばいい」