星稜・奥川恭伸の投球に思う甲子園のあり方。両エース不調の決勝戦、求められる“球児のための”環境作り【全国高校野球】

星稜・奥川恭伸の投球に思う甲子園のあり方。両エース不調の決勝戦、求められる“球児のための”環境作り【全国高校野球】

「野球の神様が自分に与えてくれた課題なのかなと」

 彼は今日も涼しい顔をしていた。
 
 今大会NO.1ピッチャーの評判通りのピッチングを続けてきた星稜のエース・奥川恭伸が決勝戦で散った。9回11安打を浴びて5失点。石川県勢の初優勝を果たすことはできなかった。
 
 閉会式終了後のインタビュー通路の壇上。奥川はいつものように淡々と試合を振り返り、相手打線の履正社をリスペクトすることを忘れなかった。
 
 調子の良し悪しを聞かれて、涼しげに振り返っていたのが印象的だった。
 
「今日はおかしいなっていう気持ちよりも、向こうのバッターが自分のまっすぐに合わせてきていた。だから、どこかで捉えられるだろうなって思っていたんですけど、そこで自分が踏ん張り切れなかった。野球の神様が自分に与えてくれた課題なのかなと。向こうの方が日本一になるべきチームなのだと思います」。
 
 誰がみてもわかるように、決勝戦の奥川は、いつもの彼ではなかった。持ち味であるコントロールがしばしば乱れ、変化球も曲がりが早かった。先制直後の3回表のピッチングはまさにその象徴で、2死を簡単にとりながら、連続四球を与えたピンチの初球が甘く入ったものだった。「四球あとの初球」という投手の鉄則さえ守れないほど、この日は奥川らしくなかった。

履正社・清水も不調「肘の異変もあります」

 中1日の登板が影響したのか、3回戦で165球を投げたのがいけなかったのか、あるいは、165球を投げて、中2日で登板したことが尾を引いたのか。
 
 バイオメカニクスのプロの分析でも入らない限りは、明確な答えは出てこないのかもしれないが、誰の目にも奥川が今大会の中でもっとも調子が良くなかったのは明らかだった。 
 
 もっとも、不調だったのは履正社の先発・清水大成も同じだった。
 
 彼は今大会で1試合165球も投げるようなことはしていないが、3回戦と準々決勝は連投している。「連投の疲れはありました。肘の異変もあります」と連投になった準々決勝戦を完投した際には清水が漏らしたほどだ。
 
 奥川は決勝戦を迎えて中1日空いていて、清水に関しては中3日もあった。
 
 昨夏の決勝戦では吉田輝星(金足農)が2度の連投を強いられ疲労を抱えての登板だったから、それに比べればこの日の2人はもっといいピッチングができるだろうと目論んだ人は多くいたはずだ。
 
 だが、現実は甘くなかったということである。

岩手県大会で194球を投げた佐々木朗希

 そうした彼らから学ぶべきものはあるだろう。
 
 日本高野連は今年4月から「投手の健康問題に関する有識者会議」を開設し、球数制限を含めたルール改正に論議を重ねている。「球数制限よりまず日程の緩和」などが多方面からうたわれる中で、今大会最多に迫る165球を投じた奥川が決勝戦の舞台で最高のパフォーマンスを出せず、連投をした清水が精彩を欠いたことは無視できないはずだ。
 
 休養日を作っても、そして、指導者が選手の体調面を配慮した起用を選択しても、一筋縄ではいかない難しさがピッチャーの健康問題には存在するということだ。
 
 岩手県大会決勝戦で160キロ右腕の佐々木朗希を登板させなかった大船渡の指揮官・国保陽平監督への風当たりは今も強い。球児の夢を大人が奪ったとまでいう識者やメディアがいたが、この日の奥川や清水を見る限りは、佐々木が岩手県大会決勝戦で高いパフォーマンスを見せられたかどうか、甚だ疑問だ。
 
 佐々木は岩手県大会の3回戦で、194球を投げていたし、準決勝でも130球の球数を要していた。奥川より過酷だったから佐々木も同じように苦しんだとまでは言い切れないものの、試合の中で全力投球している風でもなかった奥川ですら、そんな状態になったのである。
 

現状は個々の耐性に委ねている

 個人的な意見を言わせてもらうと、高校球児の体は何球まで投げれば危険であるか否かの答えは存在しないのではないかと思う。おそらく、アメリカなどでは、そうであるから、一定の線をひいて、その一歩手前に制限をかけている。ところが、日本は、「危険水域」は人によって違うというのをいいことに、個々の耐性に委ねてしまっている。これは危険なことではないのか。
 
 98年の甲子園決勝戦でノーヒットノーランを達成した松坂大輔や昨年の吉田輝星のようにとんでもない日程を乗り越えるケースはあるが、そこにエビデンスはない。彼らに耐久性の才能があったとしか言いようがなく、それをすべての投手に当てはめること自体が間違いなのではないか。
 
 101回目になって初めて決勝戦前日に休養日が設けられた。だが、それがあっても、大会随一の才能がベストパフォーマンスを出せなかったというこの事実からは目を背けてはならない。
 
 奥川は自分の疲労を言い訳にしなかった。最後まで相手打線を称えることに終始した姿勢は素晴らしかった。それだけに、彼をなんとか決勝戦という最高の舞台で輝かせる環境を用意してあげることはできなかったのかと思う。
 
 その環境を作り出すことが大人の役目であるから。
 
 
氏原英明


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