世界への視線と日本球界の課題

世界への視線と日本球界の課題

◆ 白球つれづれ2019〜第1回・プロ野球界のこれから

 新春早々、スポーツ界は快挙に沸いている。テニスの錦織圭が豪州で行われたブリスベン国際で3年ぶりのツアー優勝を飾れば、スキーのジャンプでも22歳の小林凌侑が一流選手の集うジャンプ週間で快勝。こちらは船木和喜以来、21年ぶりの快挙だ。いずれもキーワードは世界。この秋にはラグビーのW杯が国内で開催される。来年はいよいよ東京五輪。もはやトップアスリートの眼はワールドワイドに向けられている。

 そんな中、野球界でも前西武・菊池雄星の米大リーグ、シアトルマリナーズ入団が日本時間3日に発表された。花巻東高時代から憧れ続けたメジャーへの道を自らの左腕で掴み取ったのだから、今後の活躍に夢は膨らむ。

 とりわけ、注目されるのが巨額の契約金だ。3年47億3000万円をベースにして、その後は菊池側、球団側双方に選択権を残し、最大で7年約120億円の大型契約が結ばれたという。ちなみに菊池の西武最終年(18年)の年俸は2億4000万円が今季は15億円強、つまり6倍以上はね上がることになる。まさにアメリカンドリームである。

 「めでたし、めでたし」と言いたいところだが、日本球界にとってはどうだろうか? 気になるのは昨年の契約更改の頃から、マスコミを賑わせたスター選手の相次ぐメジャー志向発言だ。今や侍ジャパンの4番を任されるDeNAの筒香嘉智が球団に来オフのポスティングによるメジャー挑戦を要望。西武の安打製造機・秋山翔吾も球団の複数年契約を断って単年契約を結び、今季の活躍次第ではメジャー行きを視野に入れるかもしれない。

 昨今では、新入団の根尾昂や藤原恭大(いずれも大阪桐蔭高出身)や吉田輝星(金足農高出身)ら甲子園を沸かせた若者も「いずれはメジャーに」と野望を隠さない。他にもDeNAの守護神である山崎康晃や楽天の奪三振王・則本昴大らも近い将来の海外挑戦の可能性がささやかれている。このままの流れで行くと日本のエースや主砲は、ほとんどメジャーの道を選択する勢い。メジャー選手の多くはWBCや五輪などの国際試合への出場には球団側の「縛り」で消極的な事情を考えると、侍ジャパンの編成や成績にも暗い影を落としかねないのが現状だ。


◆ 新時代の息吹を

 1990年代、メジャーの扉を開くパイオニアが現れた。野茂英雄である。当時の球界は球団の保有権をタテに、その挑戦に否定的な声が多く、大もめにもめた。しかし、最後は一人の青年が夢を貫き、近鉄時代より安い年俸と不安定な身分を受け入れてドジャースのユニホームに袖を通した。この野茂の大リーグでの活躍がその後の選手たちのメジャー流失につながっていく。イチロー、佐々木主浩、松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大らにバトンは託されていった。

 今では衛星放送やインターネットでメジャーの中継は日常的に見られる。加えて日米野球の存在も日本選手たちに大きな影響を与えるキッカケとなった。かつて、バリー・ボンズの圧倒的な飛距離やランディー・ジョンソンの160キロの快速球に日本人は驚き、別世界の怪物と驚いた。落合博満も江川卓もメジャー挑戦など視野になかった。ところが近年の日米野球にやってくるメジャーリーガーは小粒なうえに、観光気分だから日本選手も五分に渡り合える。ここで自信を得た選手が最高な舞台で、しかも高年俸で野球がしたいと思うのは自然な流れでもある。

 しかし、日本球界をひとつの娯楽・興業組織として見た場合、これ以上の有力選手流失が続けば、危機的な状況を生みかねないのもまた事実だ。わかりやすい例を引くなら、FAで浅村栄斗を楽天に、ポスティングで菊池をマリナーズに出した西武が仮に今オフ、秋山までメジャー行きならチームは壊滅的な危機を迎えるだろう。ソフトバンクのように巨額な年俸を用意できる球団はリスクが少ないものの全球団がそうできるとは限らない。

 日米ともに選手会の力が強くなっている現状もある。だからこそ12球団で知恵を絞った流失防止策の検討が急がれる。球団と選手の結びつき方の改善、ある程度の流失は覚悟したうえでアジアからもっと幅広く人材を育成してマーケットとする、日米のポスティングの在り方を再検証する。本年からオーナー会議の議長に楽天のオーナーである三木谷浩史が就任した。新たな球界改革を目指すという。少子化、野球人口の減少だけでなく業界全体で新時代の息吹を見せる時期に来ている。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)


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