◆ 大学時代を過ごした地で踏み出した一歩

 交流戦で奮闘する中日には隠し球左腕がいる。22歳のルーキー・近藤廉だ。

 新人と言っても、ドラフト会議での入団経緯は育成ドラフトの1位。名門とは遠い球歴でプロの門をたたき、支配下契約をゲットした。




 記念すべき日は5月29日の日本ハム戦(札幌ドーム)。

 大学時代を過ごした北海道でプロ初登板。札幌学院大の恩師らの前で腕を振った。

 背番号「70」でも、胸にあるのは「202」…。



 忘れるどころか、ついこの間まで3ケタ。

 先頭の大田泰示にどん詰まりでレフト前に落とされ、これでスイッチオン。後続から2三振を奪い、堂々のゼロ封デビューを飾った。

 「先頭打者を出してしまったが、その後は走者を意識し過ぎずにしっかりと自分の投球ができたと思います」

 左腕は初マウンドを振り返り、汗をぬぐった。


◆ 岩瀬を知る首脳陣も驚く“魔球”

 チームのルーキーとしては、一番乗りで一軍デビューを果たした。

 ドラ1は高卒の高橋宏斗(中京大中京)で目下、体力づくりと場慣れの真っ最中。ただ、2位は森博人。即戦力として日体大から入団している。そんな中で、近藤は支配下入団した6選手をごぼう抜きしての一軍出場となった。


 持ち味は速球が自然とスライドする、通称「真っスラ」。

 噂は春季沖縄キャンプから駆け巡り、“近藤=真っスラ”のイメージはついた。日本ハム戦でも、その威力は抜群だった。


 あの岩瀬仁紀を知る首脳陣もびっくりの魔球だから驚く。

 「ボールが食い込んできて危ない。岩瀬よりも体に向かってくる」と証言するのは、渡辺二軍守備走塁コーチ。

 投内連係の練習では、投手の投球後にノック動作に入るのだが、渡辺コーチは打席の最後方、ベースから最も離れた場所に立つ。内角への速球が体に当たりそうでおっかないからだ。


◆ 磨き上げた“武器”を信じて

 東京都板橋区で育った。高校は、豊島区にある私立・豊南高。3年夏は東京大会の1回戦で敗れた。

 組み合わせ表を見て、「4回戦の帝京戦でいいピッチングをして野球は辞めよう」と考えていた。しかし、そんな計画はすぐに崩れて、完投した1回戦で負けた。帝京はおろか、2回戦にも進めていない…。


 野球を続けるか悩んだ。勉強にも身が入らず、声をかけられ見学しに行ったのが、札幌学生野球連盟・2部リーグの札幌学院大。

 入学して1年春からベンチ入り。2部リーグ通算3勝(9敗)。入学前に札幌に飛び、目の当たりにした積雪30センチの銀世界は記憶に深く刻まれている。野球を続ける決心をし、やるならプロをめざしたくなった。


 励みにしたのは育成出身の成功者。ソフトバンク・千賀滉大や石川柊太の映像をYouTubeで何度も見た。

 「育成でもこんなふうになれるんだ」

 どの球種がすごいとか、真っすぐの威力が強いとか、興味があるのは技術ではい。育成から羽ばたくプレーヤーを目に焼き付けるのが、何よりの栄養だった。


 3ケタの背番号は2ケタにつながっていて、その先に一軍マウンドがある。頭では分かっていても、日々は淡々と過ぎていく。

 日常に、一軍マウンドの可能性を近づけるために動画を見た。支配下になっても、背番号202のユニホームは選手寮の自室の見えるところに置いてある。


 甲子園で騒がれた高卒ドラ1、誰もが驚く球速やとびっきりの飛距離を携える大卒や社会人のドラフト上位はキラキラしている。

 その裏側で、近藤のような選手だっている。武器は意図せず身に付けた“真っスラ”。その一点を持ち味に、プロの世界で生き抜きたい。


文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)