◆ 白球つれづれ2021〜第38回・優勝争いを支える若燕

 ヤクルトにお祭りムードが漂っている。

 18日の巨人戦では塩見泰隆選手が史上71人目のサイクル安打を達成。翌19日の広島戦では村上宗隆選手が史上最年少21歳7カ月で通算100号本塁打を記録した。清原和博氏の年少記録を塗り替え、王貞治氏の868本塁打をも上回るペースというから、末恐ろしい怪童である。

 そんな打者の活躍以上に首脳陣を喜ばす“孝行息子”も現れた。20歳の怪腕・奥川恭伸だ。塩見が快記録を打ち立てる前日の17日、巨人戦に先発。初回こそピンチに見舞われたが、ここを最少失点で切り抜けると7回5安打1失点で7勝目。交流戦以降(6月18日〜)は7試合に登板して、5勝1敗、防御率1.70と抜群の安定感を誇っている。

 「カード頭を任される」。3連戦ならその最初の試合に先発する事である。初戦を勝利すればチームに勢いをもたらす。それはエースか準エースが担う大役を意味する。奥川が「カード頭」を託され始めたのは前半戦終了直前、7月13日の巨人戦からだ。

 対巨人初先発は打線の爆発にも助けられて同カード初勝利。五輪ブレークをはさんだ8月15日の後半戦開幕投手も任されて5勝目をマークすると首脳陣の信頼は増していく。勝負所の9月に入ると7日の阪神戦、そして前述の巨人戦の初戦に先発、ライバルチームをなぎ倒して、いずれもカード勝ち越しをもたらした。

 内容も充実している。先発投手の好投の目安となるクオリティスタート(6回以上自責点3以内)は7試合連続に伸び、連続無四球(死球は除く)も6月20日の中日戦7回から41回2/3を継続中。「令和の精密機械」の見出しがスポーツ紙に躍るほどだ。

 高校時代には「東の佐々木、西の奥川」と並び称された逸材。ドラフト争奪戦の末に佐々木朗希はロッテ、奥川はヤクルトに入団した。2人とも1年目は肩や肘の故障もあって出遅れたが、共にチームがじっくりと育てる方針を立て英才教育を優先した結果でもある。

 佐々木の成長も確かだが、現状では奥川が一歩先を走っている。


◆ エース街道まっしぐら?!

 星稜高時代から150キロ超のストレートと切れ味鋭いスライダーには定評があったが、それだけで通用するほどプロは甘くない。今シーズン当初は変化球が甘く入ったところを痛打される場面も目立ったが、カットボールやフォークの精度を上げることで見違えるほどの安定感を手に入れた。球威、変化球の精度が増した上に、四球で自滅することがないのだから、順調に「エース街道」のレールに乗ったと言える。

 ヤクルトと言えば近年、エース不在に泣かされてきた。厳密に言えば他を圧倒する本格派のエースがいなかった。小川泰弘、石川雅規投手らの主戦級は投球術で光っても菅野智之(巨人)、大野雄大(中日)らの本格エースと投げ合った場合に見劣ることは否めない。かつては伊藤智仁(現ヤクルトコーチ)、石井一久(現楽天GM兼監督)らの快速球で天下を獲った。そうした歴史からも奥川にかかる期待はとてつもなく大きい。

 2年連続最下位から脱して、阪神、巨人と三つ巴の激しい優勝争いはまだまだ続くだろう。20日現在、この両球団に対して大きく負け越している(対阪神6勝11敗3分け、対巨人6勝10敗3分け)ヤクルトだが、奥川が活躍しだした後半戦は、反撃の兆しが見えている。明らかに潮目は変わってきた。

 「将来的にエースにならなければいけない素材だし、エースに育てていかなければならない人材」とシーズン前に語っていた高津臣吾監督も、今では「いいペースで成長してくれている」と成長曲線に高評価を与える。

 ペナントレースのリーグ優勝はもちろん、仮にクライマックスシリーズや日本シリーズでも短期決戦には絶対的なエースが必要不可欠となる。

 現状は中9日以上の登板間隔を空けて起用しているように、真のエースとは言えない。ライバル球団のマークもきつくなる。だが、そうした包囲網も打ち破って快進撃を見せるようなら、セの覇権争いのキーマンとなるかもしれない。それだけの勢いが今の奥川にはある。

 20歳の奥川と21歳の村上。ドラフトの成否はチームを劇的に変える。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)