◆ 名選手たちの“最後の勇姿”

 プロ野球の2021シーズンもいよいよ最終盤。

 11月も近づいてきた中、両リーグでまだ優勝が決まっていないということで日々しびれるような戦いが続いている。




 一方で、シーズン終了前の恒例行事といえば、今季限りでユニフォームを脱ぐことを決断した選手による「引退試合」がある。

 今年は日本ハムの斎藤佑樹や西武の松坂大輔など、野球ファンのみならず日本中を熱狂の渦に巻き込み、社会現象を起こした選手が引退を決めたこともあって、その最後の勇姿は大きな感動を呼んだ。

 そこで今回は、過去に行われた「引退試合」にまつわるエピソードを。感動的なシーンが多い中、ひょんなめぐり合わせから想定外の珍事に見舞われた選手もいた…。



◆ 最後試合がノーゲーム…まさかの「ラストプレー」

 ついに迎えた現役最後の試合。ところが降雨ノーゲームで引退試合の出場記録が幻と消えてしまったのが、広島の倉義和だ。

 2005年から2007年にかけて黒田博樹の“専属捕手”を務めたことでも知られる名捕手は、2016年をもって19年間の現役生活に別れを告げた。

 そしてその2016年9月25日、マツダスタジアムで行われたヤクルト戦が現役最後のゲームとなり、「8番・捕手」でスタメン出場。マウンドにはアメリカでの戦いを終えて帰ってきた黒田博樹と、完全に舞台は整った…はずだった。


 9年ぶりに復活した“黄金バッテリー”は打者1人限定。1回表、先頭の坂口智隆と対したが、投球はすべて微妙にコースを外れ、ストレートの四球。次打者から石原慶幸と交代となり、倉は試合から退くことに。

 少し物足りないラストとなったが、倉は「ああいう結果も僕らしいと思う。(ストライクが)決まれば良かったんですが、黒田さんも久々のマウンド(15日ぶり)で難しかったんじゃないかと思います」と振り返り、クライマックスシリーズに向けて調整中だった黒田を思いやった。


 しかし、本来であればこのままお役御免となるはずが、1回二死一・三塁で試合が中断。そのまま降雨ノーゲームになったことから、思いがけず“第二幕”の出番が回ってくる。

 チームメイトたちに「行け!行け!」と背中を押されるように再びグラウンドに姿を現した倉は、シートの敷かれた打席でスイングのポーズを取ると、雨の中ダイヤモンドを一周。最後は水しぶきを上げながら、笑顔で本塁へのヘッドスライディングを決めてみせたのだ。


 雨の中でもスタンドに残り、カッパ姿で見守っていた地元ファンが喜んだのは言うまでもない。

 「黒田さんに“やれ”と言われたので。今日しか来られない人もいるし、せっかく来てもらったので、なんとか記憶に残ればと思って」
 
 ノーゲームとなったことで、この日の出場は記録されなかった倉だが、「引退試合で“雨中ヘッスラ”をした男」として、多くのファンの記憶に残ることになった。


◆ 打ち取ったはずが…まさかのどんでん返し

 つづいては、打者1人限定の登板できちんと役目を果たしたはずが、まさかのどんでん返しに目を白黒させる羽目になったのが、DeNAの高橋尚成である。

 16年のキャリアで日米通算93勝をマークした左腕は2015年の10月2日、古巣・巨人を相手に先発として現役最後のマウンドへ。当初は中継ぎの予定だったのだが、もともとは先発投手。中畑清監督が「頭に行く。打者1人。その方がいい」と温情を示した形だ。


 高橋も「1人を全力で抑えられるエネルギーを持ってこい」という指揮官の言葉をしっかりと胸に刻み、先頭打者・立岡宗一郎を1ストライクから2球目のスライダーで遊ゴロに仕留める。これを倉本寿彦が危なげなくさばき、一塁へ送球。ここまでは高橋も大満足だったはずだ。

 ところが、倉本の送球がやや逸れたことが災いし、一塁手のホセ・ロペスが捕球に失敗。後逸してしまう。マウンドの高橋も思わず体をのけぞらせて悔しがった。

 それでも、「自分の思った通りの球が投げられた。エラーで締めるのも僕らしい」と自らを納得させると、わだかまりなくロペスと抱き合い、2番手の石田健大にマウンドを譲った。


◆ 村田修一の逆転弾で「現役最後」の出場が幻に

 最後は土壇場の逆転劇によって、現役最後の出場が幻と消えてしまった選手。現在は阪神の監督を務めている矢野耀大だ。

 2003年、2005年と阪神の2度の優勝に正捕手として貢献した矢野。2010年9月30日・横浜戦の試合後に引退セレモニーが行われることになったが、試合の展開いかんによっては現役最後のマスクをかぶる予定だった。

 そして、試合は5年ぶりVに向けてマジック点灯中の阪神が3−1とリードして最終回へ。この回から満を持して守護神・藤川球児がマウンドに上がる。

 勝利まであと1人の二死、または併殺でゲームセットの可能性がある一死一塁という場面になったら、藤川と矢野の“黄金バッテリー”による感動のフィナーレが実現する…はずだった。


 ところが、尊敬してやまない先輩の花道を最高に盛り上げたいという気持ちが先走ったのか、藤川は松本啓二朗と内川聖一に連続四球を許し、無死一・二塁のピンチを招いてしまう。

 こんなときは、得てして皮肉なめぐり合わせが待っている。次打者は、3年前にも引退登板の広島・佐々岡真司から本塁打を打ってしまい、カープファンから「空気が読めない」といわれた村田修一。

 カウント1ボール・2ストライクからの4球目、見逃せばボールになる149キロ直球をフルスイングすると、打球は左翼席まで飛び込む逆転3ラン。この瞬間、矢野の現役最後の出番も幻となり、敗戦後には阪神の優勝マジックも消えてしまった。

 「正直言って、最後(試合中の)グラウンドに立って、皆様にお別れができればと思った」と残念がった矢野だが、人格者らしく、「これまで球児にはどれだけいい思いをさせてもらったか、どれだけ幸せを貰えたか、誰も文句を言うわけがない」と“神対応”を見せる。

 試合後の引退セレモニーでは、これまた皮肉なめぐり合わせで、当時横浜の選手会長だった村田から花束を手渡されるひと幕もあり、一体2人がどんな言葉を交わしたのか、虎党ならずとも気になるところだ。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)



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