社会人野球で実績十分の新監督



1月18日、慶大が新年の練習を始動させた。昨年12月1日に就任した堀井哲也(JR東日本前監督)は室内練習場で熱血指導した

 慶大と言えば毎年2月上旬、全国どこの大学よりも新年の練習始動日が遅い。その理由は明確で、1月の試験に専念するためだ。しかし、今年は約2週間前倒しとなる1月18日に、全体練習をスタートさせている。

 この日は朝からみぞれのため、午前9時から室内練習場で必勝安全祈願が行われ、その後、投手と野手に分かれて汗を流した。

 なぜ、このタイミングになったのか? 昨年12月1日に就任した堀井哲也監督は言う。

「アメリカ遠征(2月18日から)が控えており、旧チームから主力の4年生も抜けた。私自身、1年目でどういう雰囲気でやっているのかを確かめたいのと、一人でも(旧4年生を)カバーしてくれる選手が出てきてほしい。毎日、いろいろな発見があります。グラウンドにはいろいろなものが落ちている。やっぱり、野球選手はグラウンドが良いですよ」

 右腕・津留崎大成(楽天)、正捕手・郡司裕也(中日)、捕手・植田将太(ロッテ育成)、外野手・柳町達(ソフトバンク)と4人がプロ入りするなど、主力選手が卒業。投手陣は豊富も、新たな野手の台頭が待たれる状況だ。

 慶大OBの堀井監督は、社会人野球において実績十分である。三菱自動車川崎では外野手としてプレーした後、マネジャーを歴任。三菱自動車岡崎では監督として、2001年の都市対抗準優勝。JR東日本の監督としては2011年に都市対抗を制し、3度(07、12、13年)の準優勝。昨夏には10年連続出場監督表彰を受け、常勝軍団を築いた。

 昨秋まで率いた大久保秀昭氏はJX-ENEOS監督に復帰。言うまでもなく、堀井監督は「現役指揮官」のまま母校監督就任と、現場としてはスムーズな移行ができたと言える。

 社会人野球の所属選手は30人程度。一方、慶大は120人。新1年生が入学すれば、150人以上の大所帯を率いる立場になる。カテゴリーは違うが、ブレない信念がある。

「勝利至上主義ではないが、勝つことを最優先する」

 リーグ戦前になって勝利を目指すのではなく、常日ごろの取り組みから「勝ち」を意識。つまり、ゲームまでの取り組み、過程を大事にする。すでに勝負は始まっているのである。

「学生野球ならではの純粋さがある。伸び率、吸収力。心が揺さぶられます。気持ちが高ぶり、心が洗われます。年明けから自主トレを見ていますが皆、良い動きをしている」

学生に伝わった新指揮官の思い


 就任直後から全部員との面談をスタートさせ、学生を知ることから着手。1人1時間以上を要すこともあり、1日に4〜5人が限界だ。「このペースなら終わるのは2月になりそうです。2、3回来る学生もいます。いつでも監督室に入ってこい! と開放しています」

 1月14日には慶大時代の恩師・前田祐吉氏が特別表彰で野球殿堂入りした。

「このグラウンドでやる意味、神宮球場でプレーする意味。先人たちがつないできたこれまでがあるからこそ、今がある。私たちはこれからを未来につないでいかないといけない」

 目標は不変だ。リーグ優勝、日本一、早稲田に勝つ。誰が監督でも、そこは譲れない。

 練習始動日に先立ち、15日には全体ミーティングが行われ、堀井監督の指針が示された。慶大は昨秋、3季ぶりにリーグ戦を制し、明治神宮大会では19年ぶりの頂点に立った。現状を踏まえ、新主将の遊撃手・瀬戸西純(4年・慶應義塾高)はこのように受け止めた。

「何年計画とか、徐々にではなくて、春から日本一を狙う、と。4年生としてはありがたい言葉が心に響きました。自分たちの代でも勝ちたいですが、個人の力だけでは難しい。そこで、チーム力が必要。それが何かと言えば、仲間全員がチームに興味を持つことだと思います。1球1球に関心を持つ。昨年の4年生が理想形かもしれませんが、同じようにはできません。言動、行動を参考にしながら今年は今年のやり方で日本一になりたい」

 新指揮官の思いは十分、学生に伝わっている。「始動が早まったのは、春のリーグ戦への思いを浸透させる時間が少しでも長くなったということで、プラスにとらえている。とはいえ、学業を疎かにしてはいけない」と瀬戸西。これからは進級に関わるテスト本番だ。野球に打ち込むためにも、まずは試験で結果を出す。慶大はスケジュールが大きく変わっても、本物の文武両道を実践する集団である。

文=岡本朋祐 写真=BBM