チーム再構築と球界ルールへの挑戦



新たなアイデアを盛り込みながら発信を続ける巨人・原監督

 リーグ3連覇が懸かる2021年シーズンを前に、巨人の原辰徳監督の動きが活発だ。投手チーフコーチ補佐として、プロ指導者としては未経験だった桑田真澄氏を招へい。一方では、以前から主張しているセ・リーグでの指名打者(DH)制導入の必要性をあらためて訴えている。ファンも驚いたチーム再構築と球界ルールへの挑戦という積極的なアクションには、これまでとはひと味違う異彩を放つリーダーの野望と真骨頂が浮き彫りとなっている。

 15年ぶりの古巣復帰となった桑田氏への入閣要請は、監督直々になされた。08年の引退後、東京大学大学院などでスポーツを研究。アマ野球にも造詣が深い。プロ時代に培った実績やノウハウはもちろんだが、球界全体を見渡せる視野の広さを高く評価した。

 新コーチと野球観をぶつけ合った原監督は、「(桑田氏は)水を得た魚のごとく目を輝かせて、球界とジャイアンツのためにと、一寸の迷いもなく話を聞いてくれた。大いに暴れてもらいたい」とコメントした。現役時代から理論派として鳴らし、非科学的な野球を嫌う合理的アプローチが信条。指導者としては未知数の人材の大胆登用に、原監督の期待の大きさと日本一奪還への並々ならぬ決意がにじむ。

 協議が持ち越されているDH制導入だが、セの他球団がアレルギーを示すなど、逆風が吹く状況だ。それでも、原監督はアピールをやめない。「ルール変更はプラスになる。主催試合では(DH制か、これまでどおり9人制か)どちらかを選べるようにしてはどうだろう」。昨年末の理事会では反対意見が大勢で今季からの暫定導入が頓挫したが、新たなアイデアを盛り込みながらの発信が続いている。

 日本シリーズでソフトバンクに2年連続の4連敗。パ・リーグ覇者に完膚なきまでに打ちのめされた原監督は、「2、3日寝られなかった」と振り返る。悔しさとともに痛感したのが、実際に対戦した当事者にしか分かり得ない力の差だ。「何とかしなければ」という危機感は、誰よりも深く刻み込まれている。

 原監督は再三にわたるDH制導入のアピールが、球界内外にさまざまな反応を起こすのも重々承知しているはずだ。「格差の理由がDH制と決めつけるのは短絡的。それ以外にも実力が開いた理由はある」という意見に加え、「人気球団の思い上がり」「ソフトバンクに歯が立たなかった責任転嫁」という厳しい声もある。だが、フリーエージェント(FA)やドラフトの戦略に論点が移り、過去にさまざまな局面で強権をふるったとされる巨人が非難の矢面に立つことも想定内なのだろう。むしろ、幅広く、遠慮ない議論が巻き起こるのを望んでいるふしさえうかがわれる。

「人生はチャレンジ」


「若大将」と称される風貌やイメージ、純粋で真っすぐな語り口にあざむかされてはいけない。原監督は1度決めたら簡単にはあきらめない、鉄の意志を持つ人物だ。その信念と哲学は実の父であり、恩師として「もっとも影響を受けた一人」と公言する貢氏から引き継いでいる。

 母校の東海大相模高、東海大の監督を務めた貢氏から厳しく指導され、実力至上主義と、それを実現するためのキャプテンシーをたたき込まれた。「人生はチャレンジ。失敗を恐れず攻撃的に生き、常にベストを尽くすべき」というのが教え。原監督は、ことあるごとに「節目でいつも父の教えを思い出す」と語っている。

 ユニフォーム組が、球界の決定事項や現存ルールへの異議や改変を申し立てるケースは珍しい。かつて球団減による「1リーグ制」を画策した経営者たちに反旗を翻した古田敦也会長率いる選手会の例はあるが、これは働く場が縮小される事態を避けようという労働者的観念からだ。現場に身を置く原監督が歴史と伝統を持つルールからの転換に執念を燃やす姿は、これまでのリーダーの発想とは一線を画す。

 人気球団監督の意地やプライドと単純には片づけられない。野手を投手で起用するなどこれまでの“常勝球団のリーダー”の型にはまらない改革精神には、リスクを恐れない先駆者のアグレッシブな柔軟性がある。

 原監督は、DH制導入を突破口として「セ・リーグは、プロ野球はこのままでいいのか――」と問いかけている。残念なのは、現状維持の是非論にリーグ格差の原因解明のチャンスがひそむ可能性があるにもかかわらず、セの他球団が真剣に向き合おうとしないことだ。

 パの後塵を拝している今こそ、セが変わる絶好のタイミングだ。DH制という限られた話題にとどまらない考察が、ただただ巨人追従と揶揄されたリーグを変える分岐点になるかもしれない。盟主と言われた球団で歴代最多勝利数を挙げた指揮官の情熱に敬意を表すという意味でも、伝統にとらわれないリーグの在り方について堂々と議論を戦わせてほしい。

写真=BBM