元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』がベースボール・マガジン社から発売された。

 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀、門田博光、コーチ時代の落合博満、村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。

 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。


『酔いどれの鉄腕』表紙

逃げて四球はかばわんぞ


 本の内容をちょい出ししている連載。

 今回は1984年にロッテのコーチとなった際、2年連続チーム防御率最下位のチームをどう立て直したかという話。

 これは弱いチームの特徴だけど、ロッテは四球が多かった(1983年はリーグワーストの634与四死球)。プロだからストライクを投げる制球力がないわけじゃないよ。要は逃げているということなんだ。

 確かにコースぎりぎりのボール球は手を出してくれたら凡打の可能性は高いけど、そればかりじゃ振ってくれんよ。あげく四球を出したり、カウントを悪くしてストライクを取りに行った甘い球を長打されたりが多かった。

 俺がいつも言ってたのは、「連打しても向かって行ったならかばうが、逃げた四球があったらかばわんぞ」だった。ヒットより四球がよくないのは、まず味方がしらけるでしょ。みんな打球をしっかり処理して失点しないようにと守っているんだからさ。

 あと、相手が思い切った作戦に出やすいこともある。俺も中日の二軍監督をしたときに思ったけど、四球やエラーの走者には、大胆な策を仕掛けやすいんだ。クリーンヒットだと、盗塁のサインを出してアウトになったら悪いなとか、どうしても頭をよぎってしまうけど、拾った出塁の走者なら、どう使っても勝手でしょ。

 監督の稲尾和久さんと四球をどう減らそうかと相談していたら、「四球は罰金にしよう」と言いだした。俺は罰金嫌いだから、最初は反対したんだけど、大した金額じゃないから、まあ、いいかって。

 1つは1000円、2つ続けたら3000円だった。梅沢義勝から「3つ続けたらどうなるんですか」と聞かれたから、「3つは二軍な」と答えたら青くなっていたけどね。

 キャッチャーには「『とりあえずビール』じゃないけど、とりあえず初球は真っすぐ、という考えはやめろ。イニングの先頭打者に四球は絶対に出すな。いつも1アウト満塁だと考えろ」と言った。満塁なら四球で押し出しだから1球目から集中していかなきゃね。先頭打者を取ると投手もチームも落ち着くし、逆に出すと大量点もある。強いチームならそこまで細かく言わんけど、ロッテは最下位だったからね。

 やっぱりピッチャーは攻めなきゃいけない。別に150キロの真っすぐがなくても、向かっていくピッチャーはバッターも絶対怖い。

 前も言ったけど、攻めるというのは速い球を投げたり、インコースに投げることだけじゃない。常にストライクを先行させて「カウントで攻める」もあるし、「テンポで攻める」もある。その選手にあった攻めでいいんだ。いい投手ほどバッターを見下ろして投げるものだしね。

 ピッチングは駆け引きだから、はったりだって大事。天下の大投手に申し訳ないが、江夏豊を例に出して、「ブルペンでいくら調子悪くてもマウンドでは平気な顔をしろ。江夏はブルペンで調子が悪くても、いつも腹……、いや胸を張ってたぞ」と言ったこともある。相手は、こっちがブルペンで調子が悪いなんて分からないんだからね。選手にブルペンから胸を張って歩く練習をさせたこともあった。

 下を向いていると、「やり直し!」って。

 審判にも元気よくあいさつさせた。そのうち「今年のロッテの投手陣は攻めてるな。元気いいね」って審判だけじゃなく、相手チームからも言われるようになったよ。