一級品のチェンジアップ



松井颯と原監督

 5月21日、巨人対中日戦を東京ドームのレジェンズシートで解説した。

 この日、先発はWBCで名を上げた中日・高橋宏斗に対し、巨人は育成ドラフト1位の新人・松井颯が、プロ初登板初先発だ。松井は花咲徳栄高校から明星大を経ての入団だ。ポテンシャルは高いと聞いていたが、5月に入って支配下となったばかり。気が熟したというより、交流戦前の試運転かなと思った。

 しかし、1球目で衝撃を受けた。いきなり150キロ。球速自体は珍しいものではないが、球質がいい。これは育成がつかないドラフト1位でもまったくおかしくない。キャンプインから、まだ4カ月もたっていないし、プロで何かをつかんだというより、まさに天性のものだろう。他チームのスカウトは今ごろ、「なんで報告がなかったんだ」と、上司から怒られているかもしれない。

 さらにびっくりしたのはシンカーと出ているメディアもあったが、きれいに抜ける120キロのチェンジアップだ。5回一、二塁で、代打で出てきたアルモンテを相手に真っすぐとチェンジアップで翻弄しての三振は見事だった。真っすぐとチェンジアップは現段階でも一級品と言っていいだろう。カーブは今一つだったが、これから使える球種が増えたら、早い時期でエース格となってもおかしくない。

 もう1つ、この選手でいいなと思ったのが、ガッツポーズがなく淡々と投げているところだ。新人ながら大物感も漂っている。

 今回は5回だったので、球数が増えたときのピッチングも見てみたいが、この日のピッチングができれば、交流戦でデータの少ないパ・リーグの打者は簡単には打てないだろう。そこで経験を積み、中盤戦以降、Gの救世主になるかもしれない。

 名前のとおり「はやて」のように現れたホープ。「はやて」のように去っていかず、しっかりチームの先発の軸に成長していってほしいものだ(月光仮面知ってます?)。

 ベンチを見ると、原辰徳監督の笑顔が柔らかくなっていた。ついに貯金1、原巨人の逆襲の準備が整ったか。

写真=BBM