赤門へのこだわり



東大の4年生・府川は先発2試合目にして、リーグ戦初本塁打。ホームランボールを手に喜びの表情を見せる[写真=矢野寿明]

【4月14日】東京六大学リーグ戦(神宮)
慶大8-3東大(慶大2勝)

 赤門へのこだわりは相当だった。今春から正捕手としてマスクをかぶる府川涼太郎(4年・西大和学園高)が、東大野球部に魅了されたのは高校1年時。左腕エース・宮台康平(元日本ハム、ヤクルト)を擁し、法大から連勝で勝ち点を奪取した2017年秋のリーグ戦を、テレビ観戦したのがきっかけである。

 東大の四番には西大和学園高出身で右の大砲・田口耕蔵がおり、刺激を受けた府川は同校へ進学。同校の慣例で、受験準備のため、野球部は2年秋で引退した。「センバツ21世紀枠を狙っていたんですが……。1回勝って、2回戦で天理高校に負け、そこで自分の高校野球は終わりました」。つまり、3年夏の奈良大会は出場していないのである。

「ただ、仲間(野球部)のことが気になって……。試合とか見に行っていたんです。結局、現役では合格できず……。事前に『ダメだろうな』とは思いましたが……。ならば、3年夏までプレーしておけば良かった……なんて、考えたこともありました(苦笑)」

 浪人生活に入り、本気で勉強と向き合った。

「東大野球部しか道はない」

 自ら退路を断ち、現役に続いて、1浪でも受験したのは「東大一本」だった。

「周囲からは反対されましたが、(仮に私大に合格しても)行かないという意志がありましたので……。2浪まではする覚悟でした。1浪で合格して、親も喜んでくれました」

 浪人期間中は毎日、バットスイングを欠かさなかった。気分転換が目的も、自身が神宮の打席に立ってプレーするイメージを描き、受験勉強へのモチベーションを高めていた。

 3年春にデビュー。昨秋までは代打要員として、リーグ戦経験を重ねた。3年秋の法大3回戦で初安打を放ち、最終学年につなげた。

司令塔としての覚悟



「八番・捕手」の府川は1対6の6回表無死一塁から左越え2ラン[写真=矢野寿明]

 今春の開幕カードの慶大1回戦(4月13日)で「七番・捕手」でリーグ戦初先発し、3打数1安打。八番となった2回戦では第1打席で中前打。5点を追う6回表の第3打席で追い上げの2ラン放った(チームは3対8で連敗)。

「第1打席はストレートを安打。それ以降も真っすぐ中心の配球だったので、アテをつけて、真っすぐ一本に絞りました。この1年間で、どこかで打ちたいとは思っていましたが……。驚き喜びがあります。開幕前に調子を落としていたんですが、大久保(裕)監督からのアドバイスで、(軸足部分の)体の右側を残すようにしたんです。その成果が出た」

 ただ、チームは開幕カードで連敗スタート。個人的な「思い」は、これまでである。

「この春の東大は『優勝』を目標に掲げています。あとがない状況です。(4月20日からの次カードの明大戦への)対策を練っていきたいと思います。自分を含めて守備の乱れがあったので、しっかり修正していきたい」

 司令塔としての覚悟を語る。

「守備力には自信がなくて、良いキャッチャーは他にもいる。リード、バッティング。4年生なので、貢献できる分野で力になりたい」

 東大は1998年春から52季連続最下位。現状からの打破を目指すチームは、あえて目標設定を上げて「優勝」とした。残り4カードで勝ち点4を目指す。府川は愛着のある東大野球部の勝利のため、身を粉にしてプレーする。

文=岡本朋祐