頼もしいニューフェース



今季、ドラフト2位でヤクルトに入団した松本

 昨年の先発防御率3.95がリーグワーストだったヤクルト。今年もコマ不足が懸念されたが、新たな力が次々に台頭して光が見えてきた。

 助っ人右腕のミゲル・ヤフーレは安定した制球力が持ち味で7試合登板し、4勝3敗、防御率2.81。先発投手が6イニング以上を投げ、自責点3以内に抑えたときに記録されるQS率が71.4パーセントと試合を作る能力が高い。プロ2年目の吉村貢司郎も太い柱になろうとしている。即戦力ルーキーとして期待された昨年は右前腕を痛めるなど12試合の登板で4勝にとどまったが、今季は7試合登板で4勝2敗、防御率1.85。疲労などを考慮されて5月18日に登録抹消されたが、稼働してもらわなければ困る右腕だ。

 そして、頼もしいニューフェースがまた一人加わった。ドラフト2位右腕の松本健吾だ。プロ初登板初先発となった15日の広島戦(松山)で3安打10奪三振の完封勝利。スプリット、スライダー、カーブ、カットボールと多彩な変化球を効果的に使い、4回から6イニング連続で三者凡退と危なげない内容だった。プロ初登板初完封勝利は史上30人目だが、無四球&2ケタ奪三振を加えると史上初の快挙。「とてもうれしいです。新人ですし、チームに勢いをもってくるようなピッチングを心掛けました。思い切っていったのが、いい結果になって良かったです」とお立ち台で穏やかな笑みを浮かべていた。

 他球団の首脳陣は「映像で見たが、制球力が抜群だった。直球もキレのいいボールを投げていたので変化球が生きていましたね。投球スタイルが村上頌樹(阪神)と重なる。ああいう投球をされると、打者は打てる球がなかなかない。ちょっと驚きましたね」と警戒を強める。


オープン戦で大炎上


 首脳陣の期待は大きい。春季キャンプで初の実戦登板となった2月21日の練習試合・楽天戦(浦添)で2回3安打無失点デビュー。高津臣吾監督は「ストライクが入るというのはすごく大きな武器だと思っている。もっともっと投球のコツというか、打者に対して、という部分をもっと磨いていけばいい。いいピッチングだったと思います」と評価していた。

 松本も「ホッとしました。1イニング目は緊張もあって、固さもあったんですけど、2イニング目はしっかり自分のボールを投げられましたし、収穫と課題が見つかった。打者に投げるのは大事だなと思いましたし、2イニング目は楽しくできた」と手ごたえを口にしていたが、プロの世界は厳しい。3月13日のオープン戦・DeNA戦(横浜)で1回6安打7失点と炎上。ファームに降格が決まった。

逆境からはい上がる強さ


 下を向いている暇はない。イースタン・リーグで4試合登板して防御率0.47。生命線の制球力を磨き、19イニングを投げて自責点はわずか1だった。松本は逆境からはい上がる強さがある。

 東海大菅生高では、3年夏に清宮幸太郎(日本ハム)を擁する早実を破り西東京大会優勝。東京都大会史上初の満員札止め(3万人)となった決勝で高校No.1スラッガー・清宮の活躍にメディアの注目が集まる中、2失点完投勝利と主役の座を奪った。甲子園では過去最高のベスト4に進出。亜大では4年春に3勝3敗、防御率1.61の好成績を残したが、秋は1勝3敗、防御率4.00と結果を残せずドラフトは指名漏れした。

「大学4年秋のリーグ戦は僕のせいで負ける試合が何試合かあって、ドラフトの日も僕が炎上して負けて、正直ドラフト会議まで頭を回す余裕がなかった。選ばれなかったときもそりゃそうだよな、と」

 社会人の名門・トヨタ自動車で野球に向き合う姿勢から見つめ直し、2022年の日本選手権・パナソニック戦で公式戦初完封勝利。昨夏の都市対抗ではENEOS戦、JR東日本戦で救援登板して計6回を無失点と日本一に貢献した。ドラフト指名漏れの悔しさから2年。心身ともに大きく成長し、ヤクルトに2位で入団した。

 セ・リーグは混戦が続いている。昨年は阪神の村上がシンデレラボーイになったように、新戦力の活躍がチームの命運を大きく左右する。プロ初登板で鮮烈デビューを飾った松本にかかる期待は大きい。

写真=BBM