チーム愛が強い大黒柱



明大1回戦は8回途中2失点で降板。7回表の第3打席では相手野手と交錯して首を痛めたが、続投した[写真=矢野寿明]

【5月25日】東京六大学(神宮)
明大2-0法大(明大1勝)

 法大は第6週の早大戦で連敗した時点で、2020年春以来のリーグ優勝が消滅していた。第7週、今春の最終カードの明大戦。相手は法大からの勝ち点(2勝先勝)奪取で、リーグ制覇の可能性が残っていた。法大としては、存在感を見せる格好の舞台。あくまでも東京六大学リーグ戦は「対抗戦勝負」であり、今季3つ目の勝ち点をどん欲に目指した。

 先発オーダーには、4年生8人を並べた。今春から母校を指揮する法大・大島公一は試合前「法政としての意地、最上級生の意地を見せる場。今年は変革元年。勝ちたいという思い。この明大戦で一つのきっかけを作りたい」と意欲を語っていた。打撃練習前、大島監督は先発のエース・篠木健太郎(4年・木更津総合高)と三塁ベンチで約2分、話し込んだ。

「篠木はこれまで、3勝がシーズン最多なんです。秋につなげる意味でも、何としても、4勝目をつけさせたい。そんな思いでした」。大島監督は“親心”を吐露。指揮官の心を突き動かすほど、チーム愛が強い大黒柱である。

 勝利への執念。篠木は1球ごとにマウンドで吠える。チームのために腕を振り、白星への思いが、体全体からにじみ出ている。しかし、4回裏と5回裏に、それぞれ1失点。7回表の第3打席では二塁内野安打の際に、一塁ベース上で相手野手と交錯した。「首をムチ打ち。そんな感じです」。一時、治療のため、ベンチへ下がったが、グラウンドへ戻ってきた。大島監督は「無理はさせられない」と最大限の配慮をした上で、本人の意志を最終確認。8回途中まで力投した。最後まで弱みを見せることはなかったが、チームは0対2で1回戦を落とした。篠木は敗戦投手である。

 試合後の取材対応で、篠木は開口一番「状態が悪い中で、難しいマウンドだった。先制を許したことが、今日の負けのすべて」と明かした。法大は第5週の東大戦、第6週の早大戦、そして第7週の明大戦と3カード連続で組まれており、疲労はピークに達していた。

「きつくないと言えばウソになる。そんなことを言っているうちは、勝てない。自分は(疲れを)出さないようにしている」(篠木)

ラストチャンスの秋こそ



法大・篠木は敗戦投手となり、試合後は悔しそうな表情を浮かべた。右は大島監督[写真=矢野寿明]

 早大1回戦は7回まで2対0とリードも、8回裏に3失点で痛恨の逆転負け。明大1回戦を通じ、勝負どころで真っすぐを痛打された。今春は高村祐助監督から教わったフォークらのコンビネーションが抜群。昨秋までの力辺倒からモデルチェンジし、変化球勝負も考えられたが、篠木の選択肢は一択だった。

「昨年から経験している野手は、自分の投げているピッチングを一番理解している。そこで変化球でかわしていけば『調子が悪いのか?』と察知するかもしれない。そこで『得点して援護しないといけない』といった余計なプレッシャーを与えたくないんです。だから、最も自信のある真っすぐ勝負でいくようにしている。ただ、挑む以上は、打たれないストレートに磨きをかけないといけない」

 防御率1.44。明大1回戦で先発として投げ合った高須大雅(3年・静岡高)と並んでトップタイである。数字としては圧倒しているが、納得のいくものではない。昨春に続き、2度目のタイトル獲得の可能性もあるが……。

「自分としては欲しかったものではないので……。悔しい思いでいっぱい。ラストチャンスをつかめるように、秋のシーズンに向けてやるだけ。自分としても、チームとしてもやるべきことは明確。自分にできることを探して、チームの柱として大きくなっていきたいです」

 篠木は「自分として、欲しかったもの」と口にした際、やや目を潤ませたように見えた。手にしたいタイトルは、言うまでもない。21年春の入学以来、一度もV経験がない。157キロ右腕には「ドラフト1位」の目標があるが、このまま卒業するわけにはいかない。

 背番号18が追い求める、勝利へのこだわり。すべてを犠牲にして、本気で取り組む姿勢は、大島監督が推し進める「変革」の上で、お手本である。同級生、後輩たちは、何かを感じているはず。篠木は下位に低迷する名門・法大再建へ向けた、チームの礎を築いている。

文=岡本朋祐