「チャンスを生かしてくれました」



明大・中山はリーグ戦初打席で初タイムリー。4年生、副将の意地を見せている[写真=矢野寿明]

【5月26日】東京六大学(神宮)
法大4-2明大(1勝1敗)

 間違いなく、次につながる試合だった。

 三塁側の明大応援席が最も盛り上がったのは、0対3で迎えた7回表二死一、三塁。ここで明大・田中武宏監督が代打に送ったのは副将・中山琉唯(4年・常総学院高)であった。

 リーグ戦初打席も「考えることもなく、チームが負けていたので、次につなげようと。ずっと準備していたので、自信を持って打席に入りました」と、中山に気負いはなかった。

 法大の先発左腕・吉鶴翔瑛(4年・木更津総合高)の初球が暴投となり、1点を返し、二死二塁。中山は次のボールを、左前にはじき返した。集中力が研ぎ澄まされた一打。ファーストスイングが1点差とするタイムリーで、初安打初打点でチームに勢いを乗せた。

 明大はその裏、法大・中津大和(4年・小松大谷高)のソロで手痛い追加点を奪われ、2対4で2回戦を落とした。これで、1勝1敗。3回戦で法大から勝ち点を奪えば優勝の可能性を残す(早慶戦で早大が1勝2敗で優勝決定戦、早大が2敗で明大優勝)が、負ければVが消滅するという大一番である。

 田中監督は試合後、中山の起用意図を語った。

「ずっとバットが振れていたので、(得点圏で)走者返す場面で使いたいと考えていました。(正捕手で)中心打者には小島(大河、3年・東海大相模高)がおり、起用する機会がなかなかなかったですが、好投手を相手にして、チャンスを生かしてくれました」

努力を惜しまない男


 不動の「三番・遊撃」だった主将・宗山塁(4年・広陵高)が開幕3カード目の立大1回戦から、上半身のコンディション不良により欠場。同1回戦を落とし、後がなくなってから5連勝と、チーム力で立て直してきた。控え捕手の中山、一番・中堅の直井宏路(4年・桐光学園高)二番・左翼の飯森太慈(4年・佼成学園高)の副将3人が支えてきた。

「(リーグ戦でもベンチ入りしている)宗山はプレー以外のことで引っ張ってくれている。練習を通じて、副将3人が、宗山ができないことを補っている」(中山)

 中山は3年秋までリーグ戦出場がなく、ベンチ入りした昨春、秋もシーズンを通してベンチを温めた。選手としての実績はなかったが、主将・宗山から全幅の信頼を得て、副将に指名された。なぜならば、努力を惜しまない男だからだ。言葉数は少ないが、姿勢で見せる模範的な学生。ブルペンでは献身的に投手陣のボールを受け、自らも出番を待ち、万全の準備をしてきた。今春の東大1回戦でリーグ戦初出場、試合途中からマスクをかぶった。そして通算2試合目の代打で、結果を残した。

 昨年のチームにも正捕手・小島のサポート役として副将・菅原謙伸(ENEOS)がいた。菅原も出場機会は少なかったが、与えられた場面で存在感を発揮。中山は1学年上の先輩の懸命な姿を見てきた。田中監督は「日ごろからやっていることを、崩さすにやっていた。使うことができて良かった」と目を細めた。

 中山は3年間、苦労を重ね、最終学年にして数字に残るプレーでチームに貢献したが「(初安打初打点は)うれしかったですが、チームが負けたので」と表情は硬いまま。勝負師である。「下を向いている時間はない。明日の試合に切り替えていきたい。ロースコアになるので、チーム全体として、次につなぐことを徹底していけば勝てる」。あくまでも個人的な喜びは封印し、チームリーダーの一人としての発言に終始していた。

 法大3回戦は春の集大成である。田中監督は「あちらが必死なのは分かる。優勝の可能性がありますが、勝ち点を取るという当初の目標を変えずにやっていく」と力を込めた。中山の適時打は、多くの明大部員の希望の灯となった。法大との対抗戦で勝ち点を奪取する。そのことだけに集中して、神宮に挑んでいく。

文=岡本朋祐