【単独インタビュー】吉田亜沙美、現役続行に至った五輪への想いーー「ラストチャンスのラストチャレンジ」

【単独インタビュー】吉田亜沙美、現役続行に至った五輪への想いーー「ラストチャンスのラストチャレンジ」

 9月2日、驚きのニュースが飛び込んできた。

『吉田亜沙美の現役続行』

 今年3月にJX-ENEOSサンフラワーズの11連覇に貢献し、引退を表明した吉田。だが、再び彼女は戦いの場に戻ってきた。日本を代表する司令塔が大きな決断をした裏にはどんな思いがあったのか。単独インタビューでその理由を聞いた。

◆東京オリンピックの存在が現役続行へと突き動かした

――まずは現役続行に至った経緯を教えてください。
吉田 もう一度バスケットボールをしたいと思うようになったのが8月ぐらい。7月の頃は、バスケットをしたいと思っていても、それが日本代表やWリーグでプレーするというのではなく、ただ単にバスケットをすることで体を動かしたいという感じでした。

 それに加えて、今までプレーヤーとしてバスケットに接していたのが、少し離れた立場で様々なカテゴリーの試合や練習を見た時に『やっぱり私はバスケットが好きなんだ』という感情が沸いてきて。3月の時点では、気持ちもパフォーマンスも満足できないから引退を決意し、それは本当に事実でした。だけど、ミニバスの頃から今年の3月まで休みなくやってきて、生まれて初めて6カ月間、バスケットに関しては何もしない生活の中で刺激が全然なかったんですね。今まで勝つか負けるかという世界で生きてきたので、引退後の生活も楽しかったのですが、「何か足りないな」と思うようになりました。そんな時期に「復帰すれば」と声を掛けてもらうことも多く、段々とプレーをするという選択が出てきました。

 特に引退した半年間、嫌でも“オリンピック”という言葉を耳にしたり目にしたりしました。それで試合に出られるか出られないかは関係なく、東京オリンピックの時に現役だったらどういう景色だったんだろうという考えるようになって。4年前のリオデジャネイロオリンピック後、一切、東京オリンピックに出たいとは思っていなかったけれど、出たいというよりは“チャレンジしたい”と思いが募り、結局はそれが(現役続行の)一番大きな理由になりました。

――選手として東京オリンピックに挑戦したかったのですね。
吉田 はい。5月の女子日本代表の国際強化試合ではそういう思いはありませんでした。あの時はJX-ENEOSの選手が多かったから、「頑張ってほしいな」と思って見ていただけで。でも、8月末のさいたまスーパーアリーナで行われた国際強化試合では、「この会場でやれるのはいいな」と思っていました。自分がもしあのコートにいたらどんなだったんだろうと。渡嘉敷来夢や宮澤夕貴(ともにJX-ENEOS)たちとまた一緒に日本代表でやれたらどれだけ楽しいんだろうとも思っていましたね。

――辞めた理由が気持ちとパフォーマンスの面。気持ちは戻ってきた感じではありますが、パフォーマンス面ではどのような状態ですか?
吉田 約6カ月何もしていなかったので、筋力を付けているところです。バスケットの動きができるようになるにはまだ厳しいと思います。でも、それも含めて覚悟を決めているので、時間は掛かるかもしれないけれど、どんなに厳しくてもやりたいという気持ちはすごく強いです。ただ、JX-ENEOSに入った以上はチームの目標があるので、どれだけチームに貢献できるか。より早く復帰できるようにトレーナーやトレーニングコーチとコミュニケーションを取りながらやっていきたいです。

――例年とは違い、今回はオフシーズン期間に何もしなかった“だけ”というわけにはいかないのですね。
吉田 違いますね。周りもそう言ってくれますが、引退していない時はオフシーズンでもトレーニングや軽い練習もして体を調整していました。でも今回は、好きなものを食べて好きなもの飲んで、好きな時に起きて。気が緩んだ生活をしていましたから、それは体にきますよね(笑)。

体作りを中心に練習に励む吉田

――会見を開くなど、華やかな引退からの現役続行は相当の決心だったのではないですか?
吉田 そうですね。今でもまだ複雑な思いだし、吹っ切れていないというか。一度自分の意志で辞めた人間が、もう一度やりたいというのは、受け入れられないこともある。受け入れられなかったら諦めようと思っていました。

――その中でJX-ENEOSで復帰となりました。
吉田 この1シーズンは自分一人で体を作っていこうと思っていたのですが、オリンピックを見据えるならチームに所属して環境が整っている中で試合をした方がいいというアドバイスを受けました。チームに所属する決断をしたのがWリーグの登録締め切り直前。JX-ENEOSは私がいなくなってのチーム作りをスタートしていたので、そこに戻るのは難しいと思っていました。個人的にはJX-ENEOSに戻りたい思いは強かったのですが、現役選手たちがどう思うかが一番気になっていたことで、でも選手たちも私が戻ってくることに対して“ウェルカム”だということを聞き、JX-ENEOSでプレーをさせていただくことにしました。

――周りの選手から受け入れてもらうとやりやすいところはありますね。
吉田 もしかしたら納得できないという思いを抱えている人もいるかもしれません。でもそう思うことは普通のこと。その中で受け入れてもらえるように私が示していけばいいことなので、それぞれにいろんな感情や意見があることも含めて、覚悟を決めて戻りました。今は純粋に(復帰して)うれしいとは思えない。私自身も複雑な思いはありますね。

――いろんな感情を超えるほど“バスケットがしたい”という思いが強かった。
吉田 この気持ちを伝えようか伝えないままにしようかはすごく悩みました。でも、東京オリンピックが終わった時に何もしなかったことに後悔したくない。その思いが他の感情より勝ったので行動に移しました。

――バスケットへの思いが突き動かしたわけですね。
吉田 自分から動き出したのは人生の中で2回目。1回目はミニバスの時です(吉田は父の高校の先輩にあたる小鷹勝義コーチが指導する千葉のチームに電車で通っていた。当時、このチームへの入団は姉に来た話だったが、吉田が「行きたい」と直訴した経緯がある)。

 ずっと姉の後を付いていた私が、自分から行きたいと言ったのも初めてでした。それに続いてですね。もちろん、わがままだということも分かっています。分かっているけれど、どうしようもなかった…。

――もしかしたら、悩んでいる時点でやりたかったのかもしれないですね。
吉田 やりたいんですよ、結局はやりたいんです。でも、「どうしよう」と悩んでいる時は、そこまでの覚悟も勇気もできていなかった。勝たないといけないチームにいて、連覇を継続しながら戦い続けることの苦しさも自分自身が一番分かっていて、それがしんどくて辞めたのに、またそこに戻るの?って。でも、やりたい。この2つの気持ちが私の中でずっと巡って、相当悩みましたね。

――勇気と覚悟が決まったのは?
吉田 チームに所属した方がいいとアドバイスを受けた時ですね。時間がなかったので、ゆっくり考える暇がなかった。でも、今思えばそれが良かったのかもしれないです。

◆悩んだ末に“チャレンジ”を選んだ吉田

――8月の国際強化試合の時は、どんな思いで見ていたのですか?
吉田 オリンピックにチャレンジしたいという思いはある程度固まってたので、「いつかここに戻ってきたいな」とは思っていました。

――やはり東京オリンピックの存在は大きかった。
吉田 大きかったですね。現役の時にオリンピックが母国で開催されるチャンスは二度とないですから。

――久しぶりの練習を見たところ、とても楽しそうでした。
吉田 楽しいですよ。動けない自分がまた楽しいし、「こんなこともできなくなってるんだ」と感じるのも楽しいし、悔しい。でも、練習中はいいけれど、練習を終えて自分一人の時間ができた時に怖かったり、不安だったりはしています。

様々な思いを持って再びコートに立つ[写真]=新井賢一

――東京オリンピックまで1年を切った中での新たな挑戦ですね。
吉田 ラストチャレンジですね、バスケットの中での。一度引退して、また戻ってきて。東京オリンピック以降はどうなるかまだ分からないけれど、とりあえず一つの区切りとして東京オリンピックまでがラストチャレンジ。ラストチャンスのラストチャレンジだと思っています。

――今の状況は崖っぷちなのですか?
吉田 感じてますね。だって私が好き勝手に生活している時にみんなは頑張っていたわけですから。そこでの差は絶対に開くし、今はやれることも限られていてスタートラインに立ててもいない状況。あと1年もないところに挑戦するという無茶な戦いをこれから自分でやっていくことは、だからこそやりがいがあるのかもしれないけれど、「バカだな」とは思いますね(笑)。

――後悔したくなかったわけですね。
吉田 やらないで後悔するよりも、チャレンジしてダメだったらそれはそれで納得しますから。でも、相当クレイジーですけどね(笑)。

――この半年は戻るための大事な期間だったのかもしれませんね。
吉田 最大限にリラックスはできましたね。これだけバスケットから離れたことはなかったので。

――シーズンに向けたチームの決起集会ではルーキー紹介のタイミングで挨拶をしたとか。
吉田 そうなんです。一番年上でルーキーってみんながやりずらいですよね(笑)。私が戻ってきたことで、気持ちやバスケットに対する姿勢、コミュニケーションを取ることの大切さなど、何かしら影響を与えられたらいいなと思っています。

取材・文=田島早苗
写真=新井賢一、バスケットボールキング編集部


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