日常生活の中で、何かを見つけたときの発言、絵を描いたときの表現など、子どもの自由な発想に驚かされた経験がある方は多いのではないでしょうか。その人なりのものの見方を楽しみ、好みを表現していくことは、個性を伸ばすことにも繋がります。
今回は建築を切り口に、子どもたちが豊島美術館で取り組んだ、一人ひとりの個性を引き出すワークショップをご紹介します。

この記事のポイント

  • よくみる—豊島美術館と自然に目を向けてみる
  • 表現する—自分だけの美術館を作ろう
  • 共有する—多様な感性に触れる
  • ワークショップを通じて子どもたちが身に付けたもの

よくみる—豊島美術館と自然に目を向けてみる

昨年12月に、香川県高松市にある建築設計事務所、「ミライクラフト一級建築士事務所」にて毎月1回開催されている「個性が光る子ども家づくり教室」の生徒さんを中心に、豊島美術館にて子どもたちと建築ワークショップを行いました。

「個性が光る子ども家づくり教室」では、建物の間取りやものづくりを通して、子どもたち一人ひとりの持つ感性や個性を引き出しながら、自分だけの想像力や表現力を豊かにしていくワークショップを行っています。

今回のワークショップの舞台となった豊島美術館は、「アート、建築、自然の一体化」という構想のもと、豊島の唐櫃(からと)地区の小高い丘に建てられた美術館です。周囲の自然やランドスケープに溶け込むような建築と、光や風など、ありのままの自然を受け入れているような作品空間内では、1日を通して水が生まれ、「泉」を作り出しています。

豊島美術館写真:森川昇

子どもたちは、豊島美術館の地図を片手に、まずは周囲の自然をよく観察します。

「今日の棚田は何色かな?」「この葉っぱ、ハートの形をしてる!」と見つけたもの、気になったことを次々と地図に書き込む子がいたり、お気に入りの植物の形を一所懸命スケッチしている子がいたり、自由にのびのびと自分だけの発見を記録していきます。

気になる植物をよく観察し、スケッチしていきます。

作品空間では、周りを見渡しながら歩き回ったり、水の動きをじーっと眺めていたり、静かな空間の中に響く自然の音に耳を澄ませていたり、ゆっくりと時間をかけながら自分の感じたことと向き合っていました。

豊島美術館 内藤礼 「母型」2010年 写真:鈴木研一

そして、水の形、建物の形、作品空間で聞こえた音や、時間を過ごす中で感じたことを、それぞれ文字や絵で描き残していきます。

表現する—自分だけの美術館を作ろう

豊島美術館や周囲の自然を体験した後は、みたこと、感じたことをもとに、紙や採集した植物などを使って自分だけの美術館を作ります。

紙に穴を開けてから建物を作ったり、屋外で拾った植物でランドスケープを先に作ったり、好きな色で絵を描いてみたり、それぞれ自分の好きなところから作り始めます。

「外に置いたらどんな影が見えるかな?」「どこを入口にしようかな?」「どんぐりを使いたい!」など試行錯誤しながら、子どもたちは制作を通して自分の考えたこと、感じたことを表現していきます。
子どもたちが一人ひとり違うように、背の高いもの、横に長いもの、アーチを描いているもの、カラフルなものなど、完成した作品はどれも個性溢れるものとなりました。

共有する—多様な感性に触れる

制作後は、出来上がった作品を並べて、「どんな場所にあるのか」「どんな人に来てほしいか」「どんな気持ちで帰ってほしいか」をテーマに、みんなで話します。

「ミライクラフト一級建築士事務所」代表の野上むつみさん。どんなことを考えてそれぞれ作品を作ったのか、子どもたちに問いかけます。

「山の上にある美術館」「海辺にある美術館」「テレビの世界にある美術館」「家族が来て、綺麗って思って帰ってほしい」「老若男女問わず世界中の人が来て楽しんで帰ってほしい」など、子どもたちは自分の作品の背景にある自分の思いを口々に発表していきます。
他の子の発表を聞いて、「そういう場所にある美術館なのか!」と違いを認め合い、「ここが好き、ここがいいね」とお互いの作品の良いところを伝え合う姿も見受けられました。

最後は、自分の作った作品を豊島美術館の敷地の好きなところに置いて、発表しました。

工夫した点、屋外に置くことで気づいた新しい見方、1日を通して自分なりに考えたことや表現したことを言語化することで、自分だけの感性に気付くきっかけとなったのではないでしょうか。また、それを他の人と共有し合うことで、それぞれの個性に触れる機会にもなったことでしょう。

ワークショップを通じて子どもたちが身に付けたもの

豊島美術館でのワークショップに参加した子どもたちは、自然に囲まれ、作品と向き合い、それを好きなように表現するプロセスを通じて、自分だけのものの見方やそれぞれの持つ感性を豊かに広げていました。
また、他の子が制作時に抱いていた思いを聞いたり、それぞれの作品の良さを見つけたりすることで、お互いの違いを認め、自然と受け入れていく姿が見られました。
決まった答えのない、一人ひとりの感性が尊重される表現のワークに取り組むことで、個性を認め合うことに繋がったのかもしれません。自然、作品、建築が豊かに関わり合う空間で、一人ひとりが持つ想像力や表現力を育んでみてはいかがでしょうか。