新型コロナウイルスによるパンデミックが終息しない中、東京五輪の中止を求める世論が高まっている。

元日弁連会長の宇都宮健児弁護士が立ち上げたオンライン署名では、開始9日目の5月13日、賛同者が34万人を超え、歴代1位の38万5000(赤木俊夫氏の自死)を超える可能性も高くなってきた。宇都宮弁護士は5月14日、小池百合子都知事に宛てて、署名簿を提出する。

東京五輪の中止をめぐっては、国会でも議論となっているが、菅義偉首相は「開催は国際オリンピック委員会(IOC)が権限を持っている」という答弁を繰り返している。

IOCと開催都市である東京都、大会組織委員会が結んだ「契約」をみると、たしかに契約を解除し大会を中止する権利は、IOCのみが裁量を持つということが明記されている。

IOCが現在、開催の意向を示している中、日本側が、契約の見直しを求め、東京五輪を中止させることは可能なのか。宇都宮弁護士にインタビューした。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●菅首相が「IOCに権限がある」と繰り返す理由

IOCと開催都市・東京都、大会組織委員会が結んだ「開催都市契約」には、次のように書かれている。

「IOCは、以下のいずれかに該当する場合、本契約を解除して、開催都市における本大会を中止する権利を有する」(同66条)

菅首相はこの契約を根拠に国会で答弁してきたと思われる。

これに対し、宇都宮弁護士は「法的に、この契約の条項自体を無効にすることは難しいと思う」との見解を示しつつも、一方で、政府や東京都、大会組織委員会が一致して意見を上げれば、「IOCも中止の提案をのまざるを得ないのでは」とも指摘する。

「IOCに裁量権があるにしても、日本が主催国の政府、主催都市、それから組織委員会が一致して、今回はやっぱりこんな災害のために、また人命を重視するために困難であるというまとまった意見を上げれば、国際世論もありますから、IOCは認めざるを得ないのではないかと思ってます」

その上で、宇都宮弁護士は中止を求める理由を、あらためてこう話す。

「新型コロナの感染状況が厳しく、医療も切迫しています。中には入院して治療を受けられず、助けられない命が出てきています。それにもかかわらず、五輪開催のために医療従事者を1万人、選手や大会関係者を受け入れる病院を30カ所を確保することが要求されています。しかし、医療のリソースに余裕はない現状で、五輪の開催は困難です」

●「オリンピック憲章にも反する」

また、世界的にはワクチンの接種が進んでいる国と遅れている国との差も生じていることを宇都宮弁護士は懸念する。

「たとえば、感染が拡大しているインドの選手団の参加は断念せざるを得ない状況になっています。

本来であれば、公正な環境でおこなわれるべきですが、この状況ではフェアな大会にはなりません。アスリートのみなさんにとっても、パンデミックが終息した上で、主催国はもちろん、世界中の人々が歓迎するような環境で、五輪は開催されるべきだと思います」

IOCが定める「オリンピック憲章」は、フェアプレーをうたい、オリンピズムの目的として、「人間の尊厳に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」を掲げる。

宇都宮弁護士は、東京五輪の開催はこうしたオリンピック憲章の精神にも反すると指摘する。

「国民の意識と分断、乖離が生じてしまっています。1940年にも、日本は戦争によって東京五輪を返上していますが、新型コロナは予期せぬ災害でした。今回の五輪も返上すべきでしょう。今の問題は、日本側の主催者サイドが、まとまるかどうかです。

今回の署名活動では、世論を形にすることができました。世界の人々と連帯の輪を広げられるような活動に発展させていきたい。それがIOCを動かす力になると思います」

オンライン署名は、今後も継続するという。