親子問題のひとつに「毒親問題」があります。子の意志を尊重せずに、親が習い事や勉強を強制したり、仕事や結婚相手にも干渉したりするため、子は成人しても様々な問題を抱えることになります。この問題を専門に取り組んできた吉田美希弁護士にそもそも毒親とは何か、そしてどんな悪影響があるのか。詳しく聞きました。

●子どもを一人の人間として尊重しない「毒親」

——そもそも毒親とは何か、定義はあるのでしょうか

「毒親」という言葉の定義は、実は明確な定義というのはありません。

元々の毒親という言葉自体は、1989年にスーザン・フォワードというアメリカ人セラピストが作った言葉になります。そこでは毒親というのは「子どもの人生を支配し、子どもに害を及ぼす親」という意味で用いられています。

日本では、彼女の著作である『毒になる親 一生苦しむ子ども』という本が2000年代に入って広く読まれるようになり、毒親という言葉も認知が広まっていきました。

弁護士として相談を受ける中で、毒親とは日常的に子どもの人としての尊厳を踏みにじり、子どものことを一人の人として尊重する姿勢を持たず、子どもに接し続ける親が毒親に当たるのではないかと思っています。

親も人間なので、いつも完璧に子どもに接することができるわけではありませんが、不適切な子どもへの接し方が恒常的・日常的になっている場合、その親は毒親であると考えて差し支えないと考えます。

毒親という言葉と出会ったことにより、いろいろな生きづらさを感じている人たちが、「自分の親はもしかしたら毒親ではないか」という問題意識を出発点として、経済的、精神的にも自立を果たし不健全な家庭から離れて自分の人生を取り戻そうと行動することもあります。それにより、自分の人生を取り戻すことができます。これは毒親という言葉が広がったメリットかなと思ってます。

●「毒親」かどうかは親子の性別に関係ある?

——毒親というと母娘関係がよく話題になりますが、父と息子などいろいろなパターンがあるのでしょうか

両方毒親という場合もありますが、私のところに相談に来られる方は、母が子どもに強く執着する毒親で、父はその母を放任しているケースが多いですね。

ただこれは母親に毒親が多いということではありません。私のもとに相談に来られる20代後半から40代前半くらいの世代では、専業主婦の母親と多忙な父親という家庭が多いという事情があるからかと思います。

また、子どもの性別による違いは特にないですね。社会的には母娘の毒親関係が取り上げられることが多いですが、母と息子の関係もかなり根深いと感じています。

一概には言えないですが、夫婦関係に何らかの問題を抱えている場合がほとんどです。母親が子どもに執着するケースは、母親自身がその夫との関係に全然満足していないケースがほとんどです。決して夫婦仲が良い家庭とは言えないと思います。

●身体的・心理的・性的に傷つけられる子ども

——毒親といっても様々ですが、どのような問題行動がありますか

毒親というのは結局、虐待を加えてくる親です。分かりやすく説明すると、身体的な暴力、性的暴力、日常的な暴言ですね。「死ね」とか「クズ」とか「馬鹿」とか「アホ」とかは当たり前で、更に「生まなきゃ良かった」とか、「あなたを殺して私も死ぬ」とか、そういう暴言を日常的に吐かれている。いわゆる心理的虐待のケースにあたります。

子どもの頃に限らず、成人しても過干渉してくるケースもあります。自宅に執拗に手紙などを送りつけられ、その手紙に対して返答をしないと、今度は勤務先に行くと脅してくる。

よくあるのが、交際相手ができたことをきっかけに、その交際相手が気に入らないと親が怒り出してしまう。探偵を使って交際相手の勤務先を探り、その勤務先に押しかけたり、交際相手の実家に連絡したりするんですね。

●毒親と過ごし、自分の感情もわからなくなってしまう子ども

——毒親によって、子どもにどんな悪影響が出るのでしょうか

身体的な暴力や性的虐待がある家庭では、心理的な虐待もあると見て差し支えありません。子ども時代だけでなく、成人しても心身ともに精神的な傷は残り、心身の不調を訴える方は多いですね。

子どもは安心できる環境で保護者に見守られながら、自分の自尊心、他者との関わりなど生きていく上で必要なスキル、心を学んでいく必要があります。しかし、毒親が支配している家庭では、子どもが学ぶことはできません。

子どもの自尊心は奪われますし、他者を信頼できなくなるでしょう。様々なことに口出しされたり、コントロールされたりしますので、自分が怒っているのか、楽しいのか。痛いのか、悲しいのか。人間の根源的な感情さえも分からなくなっていく。

そのため、結婚や出産をかなりためらう方が多い印象があります。恋人とも自分が心地いいような関係を築くことが苦手だったり、仮に相手からプロポーズされても自分から断ったりしてしまう。

勇気を出して結婚や出産に踏み出した方でも、配偶者との関係、子どもとの関係にかなり悩んで継続的にカウンセリングに通われる方もたくさんいます。

●なぜ毒親になってしまうのか

——なぜ毒親になってしまうのでしょうか。その人自身の生い立ちの問題なのか、原因がどこにあると思いますか

その毒親自身が毒親に育てられていて、子どもを尊重する愛し方、育児をする方法が分からないという理由は一つあると思います。ただ、中には自分が毒親育ちであっても、かなり努力されて、いい関係を築いてらっしゃる方もいらっしゃいます。

他によく言われているのが、その毒親自身が何らかの精神疾患を抱えているケースです。だからと言って子どもに対する虐待が許される訳ではありませんが、原因としてはあると感じています。弊所に寄せられる相談の中でも、恐らく何らかの疾患を抱えているのではないかなと見受けられるケースがかなりの割合であります。

また、子どもに対して暴力や暴言で支配するのは、ある意味すごく楽なんです。子どもは怖いので言うことを聞かざるをえません。親が精神的に、経済的に余裕がない状況が毒親を生み出しやすくなるのかなと感じてます。

【取材協力弁護士】
吉田 美希(よしだ・みき)弁護士
幼少時からの虐待を含む自身の家庭での経験を踏まえ、親子問題(毒親・機能不全家族の問題)に積極的に取り組む。親子問題のうち、子の立場に立脚した弁護活動に特化しており、2015年の事務所開設以来、相談に乗ってきた子の立場の相談者はのべ700名を超える。親との間で問題を抱える人たちが、問題を解決し、前向きな人生を歩むための出発点に立てるよう、弁護活動に加えて、自身の体験や日々の発見をベースに、毒親や機能不全家族で悩む人たちに向けた情報発信も行っている。note:https://note.com/yoshida_miki/
事務所名:法律事務所クロリス
事務所URL:http://chloris-law.com/