ジャニーズ事務所の創業者、故ジャニー喜多川前社長による性加害問題。被害を告白した元ジャニーズJr.で、ダンサー・俳優の橋田康さん(37)が、藤島ジュリー景子社長と5月26日に面会し、謝罪を受けたことを明らかにした。

橋田さんによれば、5月に事務所のサイトで公表した「性被害を知らなかった」とするコメントについて、藤島社長はこの日も改めて「本当に知らなかった」と弁明した。一方で、噂を聞いたことについては認めたという。

5月初め、『週刊文春』(5月18日号)にて初めて被害を告白した橋田さんだが、「ジャニーズ事務所で過ごした時間は宝物だった」と振り返る。現在は「事務所との橋渡しをしたい」として、元所属タレントからの被害相談を受ける窓口を設置した。橋田さんに被害を告白するまでの葛藤や現在の心境について、詳しく話を聞いた。(ライター・高橋ユキ)

●「長い間嫌な思いをさせてしまってごめんなさい」

日本外国特派員協会での会見(弁護士ドットコムニュース撮影)

——5月26日、橋田さんは日本外国特派員協会で記者会見を開かれています。その日の夜にジュリー社長と都内で会われたそうですが、どんな話をされたのでしょうか

「ジュリーさんともう1人女性が同席していました。ジュリーさんはきちんと頭を下げて『長い間嫌な思いをさせてしまってごめんなさい』と言ってくださいました。憔悴しているような、困っているような、そういう姿勢で話していただいたと思います。

僕は最初に『週刊文春』の取材を受けたときから、事務所には過去と向き合って、きちんと再出発してほしいという思いがあります。それも直接お伝えしました。ただ僕は正直その日、ジュリーさんの方からコンタクトがあったことから、再出発につながる話があるのかなと、ちょっと想像していたのですが……」

——今後の話はなかったということですか

「そうです。その先につながる話は全くなく、逆に『どうした方がいいですか』と聞かれたので、もう事実として認めた上で、問題ときちんと向き合わないと前に進めないんじゃないかと話しました」

——性加害のことは「知らなかった」というお話だったのでしょうか

「本当に知らなかったとはずっと言っていました。『でも、噂も全く聞いたことがないわけじゃないですよね』と尋ねたら『それはそうです』と。おそらく直接見たとか、そういうレベルの『知る』ではないことから『知らなかった』とおっしゃっているのだと想像します。

そういう意味で言えば、知らなかったかもしれないですし、知ろうとしなかったのかもしれないですよね。ですが、このまま有耶無耶にすると、話がどんどん長引いていくのではないか、とは伝えました。現在の所属タレントたちも苦しみ続ける時間が長くなってしまうわけですから」

●「ジャニーズ事務所は、青春時代にお世話になった場所」

橋田康さん(提供写真)

——事務所の再出発を願って過去の経験を明かすことを決めたとおっしゃっていましたが、最初に『週刊文春』からコンタクトがあったときはどう思われましたか

「最初は週刊誌は怖いと思っていたんですが、真剣に向き合ってくださいました」

——書いて欲しくないことも書かれるかも、という怖さですか

「そこが一番怖かったです。僕は週刊誌のイメージは、都合よく騒ぎ立てるという印象を持っていて。ただ、実際話してみると違っていました。

僕の中ではジャニーズ事務所は、中学、高校を通して青春時代にお世話になった場所です。そこで成長させてもらったし、母校みたいな感覚。その場所に問題があると報じられ、対応を責められ、潰れていくというのは、やっぱり嫌です。

でもされたことは事実で、僕も被害に遭っている。そういう人が他にもいて、ジャニーさんは、もういない。同じことが繰り返されるとは思わないですけど、会社の体制もあり、長く加害が続いた面がある。しっかり向き合って払拭できたら、ジャニーズのみならず、エンターテインメント全体の環境が進化することに繋がると思っています。でもそれはジャニーズ事務所がしっかり向き合わなければ始まりません。

週刊文春さんからコンタクトがあったときに僕がお願いしたのは『前向きでいたい』ということでした。ネガティブな性被害の告発になってしまうなら僕はやりたくない。性被害には遭ったけど、あくまでも夢を持って芸能界に入ってくる新しい子が安心して活躍できる場になればいいという思いを持っています。現在は法改正に向けた署名活動も始まっていて、僕の行動が大きく広がっていることを実感しています」

●「僕が何か言ったことで助かる人がいれば」

橋田康さん(弁護士ドットコムニュース撮影)

——前向きな思いがあったからこそ話をしようと決意したんですね

「そうです。僕が性被害を受けたのは中学生の時。それから20年以上が経ちました。これまでいろんな人たちの支えがあって、自分の中ではもう乗り越えている。このまま何も言わないで死んでも何の悔いもなかった。

ただ取材の依頼があったのが、ちょうど会社の立ち上げ時期で、関わっている作品が控えておらず、迷惑をかける場所がない状況だったんです。ジャニーズを辞めてから、そんなタイミングが初めて訪れたときでした。僕が何か言ったことで助かる人がいるかもしれないと思うと、もう今しかないかもな、というのはあったんです。

もし3年前に取材依頼が来たら、まだ話すのは無理だったかもしれないと思います。やっぱりメンタルが必要じゃないですか。途中で壊れちゃったら意味がない。3年前の自分が、被害を語った後の誹謗中傷に耐えられるメンタルだっただろうか、と想像すると、無理だったかなとは思います。今だからこそ話せたのかなと。でも今でも、24時間心が折れそうですけどね」

——それは体験を語った後の世の中の反応に触れて、心が折れそうになることがある、ということですか

「そうですね、心無い言葉もありますし、物事が大きく変わっていくことに責任も感じます。これが良い方向に進んで着地しないと僕自身も後悔すると思うし、ここまでしたことがきちんと未来に紡がれないと、意味がない。ただ騒いで、世間を賑やかした一つのピースになってしまってはならないという気持ちもあります。

ジャニーズが良い方向で新しいスタートを切ってくれるところまで全力で走り切らないと、僕が話したことに意味がないのかなと僕自身は思っています」

●元ジュニアからの相談や応援の言葉

橋田康さん(提供写真)

——現在、児童福祉法改正に向けた署名活動をされており、3万3000筆が集まっている段階ですね(6月2日現在)。それと同時に、被害を受けた元ジュニアのための窓口を作るということをおっしゃっていました。被害申告はすでにありますか

「あります。人数や詳細を明かすことはできませんが、きちんとやり取りをしています。内容を見ているとやっぱり、きつかったんだろうなと思います。

また被害の申告だけでなく、中には、僕を含む、声をあげた元ジュニアへの感謝や応援の言葉をくれる元ジュニアもいます。賛否両論ありますが、同じ被害に遭い、それを抱えてきた人たちの救いにもなれているのかなと思いました。僕自身もそういう人に救われてます」

——なかなか表立って言えない、言いづらいことことですよね

「そう思います。今も自分でもそう思います。これからどこに行って誰と会っても『あ、ジャニーさんにいたずらされた人だ』って思われるわけじゃないですか。『初体験がおじいちゃんだった人だ』とか。

やっと乗り越えたことをもう1回深掘りして、もう1回そこと向き合わなきゃいけないわけですから。それはやっぱり嫌ですよね。自分の今の人生が充実していればしているほど苦しいと思うし、してなくてももちろん苦しいでしょう。全て投げ打って取り組まなければいけないくらいの物事の大きさだと思っています」

●「今が一番つらいかもしれません」

——被害を受けた後、日常を過ごしているとき、どういう言葉をかけられたときに嫌な気持ちになったか教えていただきたいです

「そういう経験もありましたが、今が一番つらいかもしれません。ネットをみてしまうと『男のくせに情けない』とか『今さら何だ』『情けねえな』という声もあります。『そりゃそうだよな、かっこ悪いよな』と思うんです、僕自身も。

何のためにやっているのか、自分の中で明確化していないと、この状況は耐えられないと思っています。何のためなのかといえば、同じ思いをする人たちが生まれない環境を作るきっかけになること。それだけです。

たくさんの人が救われる環境を作るためのきっかけになれたら。そしてそれがもし叶えられたら、誹謗中傷と引き換えに、自分がそういう行動をとってよかったと絶対思えるはず。そう思って耐えていますね」

●ジャニーさんへの思い

橋田康さん(弁護士ドットコムニュース撮影)

——ジャニーさんへの気持ちも伺いたいです。すごくお世話になった人、尊敬といった気持ちもすごくある一方で、嫌なことをされた。相反する気持ちがあると思いますが

「僕は被害に遭った当時『なかったことにしなきゃいけない』と思いました。次の日、会ったときにはすごく気まずかったし、顔も見たくなかったし、喋りたくもなかった。

何日かそういう状態が続くなかで、これはもう、なかったことにしないと普通に喋れないと分かってくる。なかったことだ、あんな現実は起きていなかった、と。性被害のことを除けばジャニーさんってすごくいい人だったんで。尊敬や感謝の気持ちがありました。

ただこれが『グルーミング』ということだと思うんです。ジャニーさんのことは性被害のことに関しては別で考えることを選んでいて。ジャニーさんを尊敬しているし、大好きだと思っている。もうそれは誰に何を言われようと変わらない。最初はグルーミングと言われて、いやな気持ちもありました。でも徐々に、他人に『グルーミングされてたんだな』って言われても、もういいやって思うように。これがグルーミングというものであれば、グルーミングでいいんです。

ただ今後、これがまかり通ってはいけないと思っています。『本当に尊敬しているからいいや』で済ませることじゃない。これを我慢すれば、良いご褒美がもらえるんだ、とか、良いご褒美くれるあの人はいい人なんだ、という図式が成立してはいけない。

本来は、良いパフォーマンスをするから、すごく魅力的だから、売れる、目立てる。そういうエンターテインメント社会にならないといけないと思っています。僕は『グルーミングをされました』でいいですけど、それがもう二度と起きないように業界を変えていけたらいいなと思っています」

——ジャニーズ事務所への思いも最後にお聞かせください

「ジャニーズ事務所で過ごした時間は僕の宝物で、僕という人間そのものを構築した大切な場所だと思っています。それはもう間違いなく、誰になんて言われようとそうなんです。水面下で性加害が続いていて、それが明るみになった。膿を出して、本来のかっこいいジャニーズに戻ってほしいというのが願いです。もちろん大変だと思いますが、魅力的な人たちはたくさんいるし、ちゃんと向き合えば、きっと大丈夫、って僕は信じています」