法廷録音をしようとした弁護人が手錠をかけられ退廷となり、「法廷等の秩序維持に関する法律」に基づいた「制裁裁判」で過料3万円を言い渡された。弁護人が制裁裁判にかけられるのは約40年ぶりで、弁護士業界で話題になっている。

弁護士ドットコムでは、制裁裁判を開いた大阪地裁(岩﨑邦生裁判長)の対応について、会員弁護士に緊急アンケートを実施(6月2〜5日)。108人から回答が寄せられ、およそ4分の3が「不当」との見方を示した。

●昨年から録音許可を求めていた

制裁裁判にかけられたのは大阪弁護士会の中道一政弁護士。2022年11月から事前に録音の許可を求める上申書を出すなどして、裁判所に対して弁護人による録音を本格的に求めていた。

5月30日にあった今回の公判の傍聴人によると、録音機を机の上に出した中道弁護士と岩﨑裁判官との間で、「(録音を禁止する)根拠を教えてください」、「答えません」「退廷してください」という押し問答があったという。

●「公開の裁判でのやり取りを録音されてそんなに困るのか」

アンケートではまず、制裁裁判についてどう思うかを質問。「不当である」が67.6%、「やや不当である」が8.3%で、およそ4分の3が不当に寄った判断を示した。

自由回答で多かったのは、録音を禁止する合理的な理由がないのではないか、というもの。

「裁判所作成の調書は必ずしも信用性が高いとまでは言えないことがある。人間がやる以上、完璧はないのだから、弁護人による録音を認めて、後で検証可能にしても問題がないように思う。傍聴席等からの録音はまた別の扱いが必要だとは思うが」

「公開の裁判でのやり取りを録音されてそんなに困るのか。秩序が乱されるのか。疑問である。弁護人に手錠をかけて拘束するなど行き過ぎである」

「録音の必要性は十分理解できる。先鋭的には映るが、今回これだけ話題となったことから問題提起としての『役割』は十分であった。今後、時間はかかるかもしれないが、弁護士会など正式なルートを通じて制度化されてほしいと願う。その際には立法事実(法廷でのやり取りと調書に齟齬があること)の積み上げが必要だから、全国の弁護人の協力が必要となろう」

また、裁判所が録音禁止の理由を説明することなく、手錠をかけて退廷させたり、制裁裁判を開いたりしたことを強権的と批判する声も多かった。

「中道弁護士側には、録音を必要とする理由があるのであるから、録音を認めない理由があるのであれば、裁判所は具体的に説明すべきである」

「既存の制度の中での運用であり、裁判体としても安易に例外を許容できないことは分かるが、強権的に過ぎるとはいえる」

「録音機器を没収する(一時預かり)など弁護人を拘束するより、より制限的でない方法もあったのではないか。弁護人ないし弁護権に対する重大な侵害だと思う。あるいは退廷させるのみで、制裁裁判を開く必要性がどこにあったのか疑問だ」

「法廷等秩序維持法に基づく法廷警察権の発動と解されるが、警察権の行使には、当然比例原則が適用される。本件弁護人に対する身体の拘束は明らかに不適切であり、比例原則違反と思料する」

一方で、裁判所の対応を妥当とする弁護士からは「録音が必要な理由がわからない」、「問題提起するにしてもやり方が過激すぎる」といった批判的な意見もあった。

「公判の記録の仕方は法定されており、当事者が勝手に録音することを許すのは、混乱のもとであり、厳格に対応すべきである」

「退廷命令を受けた以上、従わざるを得ないと思う。弁護人としては、退廷命令を出すことが、訴訟指揮権の濫用だと思われるような状況を作るべきだった」

●裁判所の調書に対する不信感

弁護人や代理人限定で法廷録音を認めるべきかを尋ねたところ、「認めるべき」が62.0%、「やや認めるべき」が13.9%で、過半数の弁護士が録音の必要性を認めた。

背景には、裁判所が尋問などの内容をまとめた調書の正確性が必ずしも保たれていないという問題があるようだ。

「調書の記載が自身の認識と違っていたという経験は、弁護士なら誰でもあると思う」というコメントがある通り、調書に納得いかないケースが一定数あるのに、録音がなければ異議を申し立てるにしても根拠が薄くなってしまう。関連して以下のようなコメントもあった。

「裁判については録音どころか、ライブ配信している国もある。今回の問題を契機として『裁判の公開』に関する議論が進展することを期待する」

「裁判所が携帯電話のチェックをするわけでもなく、自由な傍聴を認めている、何なら傍聴人だって簡単に録音ができる時代。それなのに、弁護人が弁護活動のため録音することを認めないというのは、『どうして?』ということになると思う」

ただし、録音を認めればデータの漏洩などの恐れもある。「裁判公開の原則」だからといって、フリーにするのではなく、適切なルールづくりが必要との声もあった。

「刑事事件の記録のように、漏らしたら罰則の制裁を設けた上で当事者には録音を認めるべき。録音を禁止するのは密室裁判をしているのと同じである」

「原則公開である法廷での録音を完全に禁じる事は不当であるとは思うが、同時に完全に自由にするべきという意見にも賛同しかねる。

裁判所で扱う件は当事者にとってはかなりセンシティブな情報である。現代は録音データも容易にインターネット上にアップロードされやすく漏洩に気を付けないとならず、録音を求める側にも一層のコンプライアンスが求められることも確か。その点を考慮した制度を確立してほしいとは思う」

なお、自身が担当した事件で裁判所が録音を忘れたり、失敗したりしたことがあるかとの問いに対しては、約1割が「ある」と回答。刑事事件では「量刑に関係がなかったので流した」、民事事件では「双方代理人が提出した尋問メモに基づき尋問調書が作成された」といったコメントがついた。