フェイスブックやインスタグラムを運営するメタ社は4月16日、著名人の写真と名前を無断使用したネットでの「詐欺広告」被害が広がる中、「オンライン詐欺は、インターネットを通じて世界中の人々を標的とする社会全体の脅威」との声明を発表した。

詐欺対策の進展には、「産業界そして専門家や関連機関との連携による、社会全体でのアプローチが重要だ」とし、「最新の傾向を把握することで新たな脅威に備えることができるよう、今後も取り組みを続けてまいります」としている。

これに対し、実業家の前澤友作氏は同日、自身の写真や名前が無断で使われていることを踏まえ、Xアカウントで、「おいおい。まずは謝罪の一言は?社会全体のせい?」と疑問を投げかけている。同氏は4月2日、「詐欺広告」被害について、警察に対策と捜査を要請するともに、同広告が掲載されているSNS事業者への対応を求めたことを明かしていた。

詐欺広告をめぐっては昨今、前澤氏だけでなく、経済アナリストの森永卓郎氏や実業家の堀江貴文氏なども、自身の名前や画像などを無断で使用されている。

SNS事業者に対する責任追及の姿勢を強める前澤氏だが、SNS事業者側が詐欺広告の掲載に関する法的責任を負うことはあるのだろうか。影島広泰弁護士に聞いた。

●被害防止の対応不十分なら「民事責任を負う可能性ある」

──一般論として、SNS事業者は利用者の投稿内容について、いかなる法的責任を負っているのでしょうか。

SNS事業者は、投稿する「場」(プラットフォーム)を提供しているだけですので、通常は法的責任を負わないと考えられています。

たとえば、私がSNSで誰かの悪口をつぶやいた場合、その悪口は私がつぶやいているのであって、SNS事業者がつぶやいているのではないので、私が責任を負うことになります。

ただし、SNS事業者が、投稿によって、誰かの権利が侵害されていることを知っていたときや、知ることができたと認められる場合には、その投稿が削除できるのであれば損害賠償義務を負うとされています(プロバイダ責任制限法)。

──今回のような詐欺広告で被害者が発生した場合、SNS事業者は、刑事責任や民事責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

SNS事業者も、一定の場合には法的責任を問われる可能性はあります。

民事責任についての裁判例としては、キャンディーの「チュッパ チャプス」の商標を侵害する商品がオンラインショッピングモールで販売されていたケースで、ショッピングモール運営者に対して差止請求と損害賠償請求ができるかが争われた事件があります。

知財高裁は、「出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって、その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができる」と判断しています(知財高判平成24年2月14日)。

もっとも、この事件では、そのような事情はないとして差止請求と損害賠償請求は認められませんでした。

また、インターネットオークションで代金を支払ったにもかかわらず商品を受け取れないという詐欺の被害に遭ったユーザーが、オークションサイトの運営者に対し損害賠償を請求した事件でも、運営者はユーザーに対して「欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務を負っている」としつつも、詐欺被害防止に向けた注意喚起について「時宜に即して相応の注意喚起措置をとっていた」などとして、運営者への損害賠償請求は認められませんでした(名古屋高判平成20年11月11日)。

以上を簡単にまとめると、「場」(プラットフォーム)を提供する運営者への民事責任の追及は、権利侵害を知っているか知ることができたにもかかわらず、相応の対応をしていないときに認められる可能性が高いことになると考えられます。

SNSでの詐欺広告被害についても、原則としてSNS事業者が責任を負うことはないものの、これだけの被害が発生していると報道されている中で、被害防止に向けた対応が不十分であるとされれば、民事上の責任を負う可能性があるように思われます。

●刑事責任の追及は容易でない可能性

──刑事責任についてはどうでしょうか。

刑事責任については、(1)「場」を解説することそのものが犯罪に当たったり規制の対象となっているケース、(2)犯罪行為の一部を行っていたり共謀したりしているケース(共同正犯)、(3)犯罪をそそのかしたケース(教唆犯)、(4)犯罪を手助けしたケース(幇助犯)が考えられます。

(1)は、たとえば賭博場開張等図利罪(刑法186条2項)があります。賭博については「賭博場」を開設すること自体が犯罪とされています。

また、出会い系サイトについては、出会い系サイト規制法で利用者が児童でないことを確認するなどしないと、公安委員会から是正命令が出され、これに従わない場合には刑事罰があります。

しかし、SNSでの詐欺行為などは、このような特別な法律は現時点ではありませんので、もし規制対象にしようと思えば、特別な法律を立法する必要があります。

(2)については、ワンクリック詐欺(送付されてきたメールのリンクをクリックすると、有料サイトへの入会登録手続が完了したと表示されて、金銭を請求される詐欺)を行っていた者に詐欺罪と組織的犯罪処罰法違反の罪が認められたものや(奈良地判平成18年4月12日)、サーバからわいせつ動画のダウンロードをさせるサイトの運営者にわいせつ物頒布等の罪が認められたもの(東京高判平成25年3月15日)などがあります。

しかし、これは、サイト運営者が犯罪行為そのものを行っていますので、SNSの投稿の中に詐欺広告が含まれているケースとは異なります。

(3)及び(4)については、たとえば動画配信サイトにわいせつ動画が多数投稿されているような場合であれば、サイト運営者が、わいせつ物頒布等罪の幇助の刑事責任を問われる可能性はあるように思われますが、SNSの事業者が詐欺を「幇助」(手助け)したとまでいえるかは難しいように思われます。

●SNS事業者の「検閲」類似権限には「民主主義に与える影響も考慮必要」

──詐欺広告で名前や画像を無断で使われた著名人は少なくなく、さらに被害が拡大することも考えられます。SNS事業者側の対応の在り方や国家レベルでの法的規制等はどうあるべきでしょうか。

先ほど述べたように、現在の法制度の下では、SNSでの詐欺広告に関してSNS事業者の民事・刑事の責任を追及することは難しいといえます。

警察庁の統計では、2023年のSNS型投資詐欺の認知件数は2271件、被害額は約228億円に上っており、対策は待ったなしといえます。

他方で、SNS事業者においては、膨大な投稿の中から、詐欺広告に当たるものだけをピックアップして削除等することには、AIの活用などの動きはあるものの、依然として多くの工数がかかると主張しています。

また、一民間企業に過ぎないSNS事業者が、投稿の「是非」を判断して投稿を削除するという「検閲」にあたるようなパワーを持つことが、民主主義に与える影響についても考える必要があるように思われます。

まずは犯罪の捜査を確実に行っていただくことが重要であることはいうまでもありませんが、今後の方向性として、発言者を偽っている「なりすまし」の投稿については、内容の是非以前の問題として通常保護に値しないと考えられますので、削除や注意喚起等の対応を求めることは行っても良いのではないかと考えます。

【取材協力弁護士】
影島 広泰(かげしま・ひろやす)弁護士
2003年弁護士登録。ITシステム・ソフトウェアの開発・運用に関する案件、情報管理や利活用、ネット上の紛争案件等に従事。日本経済新聞の2019年「企業法務・弁護士調査」データ関連の「企業が選ぶ弁護士ランキング」第1位。
事務所名:牛島総合法律事務所
事務所URL:http://www.ushijima-law.gr.jp/